・・・ 小風は、可厭、可厭…… 幼い同士が威勢よく唄う中に、杢若はただ一人、寒そうな懐手、糸巻を懐中に差込んだまま、この唄にはむずむずと襟を摺って、頭を掉って、そして面打って舞う己が凧に、合点合点をして見せていた。 ……にもか・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・ ――糸塚さん、糸巻塚ともいうんですって。 この谷を一つ隔てた、向うの山の中途に、鬼子母神様のお寺がありましょう。」「ああ、柘榴寺――真成寺。」「ちょっとごめんなさい。私も端の方へ、少し休んで。……いいえ、構うもんですか。落・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・る通町辺の若旦那に真似のならぬ寛濶と極随俊雄へ打ち込んだは歳二ツ上の冬吉なりおよそここらの恋と言うは親密が過ぎてはいっそ調わぬが例なれど舟を橋際に着けた梅見帰りひょんなことから俊雄冬吉は離れられぬ縁の糸巻き来るは呼ぶはの逢瀬繁く姉じゃ弟じゃ・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
出典:青空文庫