・・・ 作者の作品の全系列に置いて、この作品を眺めると、作者の生活の時期との関係で、或る特徴をもっている。「古き小画」の作者は、この作品のかかれた時代、結婚後五年で、その結婚生活の破れる最後の段階に迫っていた。結婚生活に入って五年の間、一つも・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・おのずからなる抒情的でメロディアスな筆致は、わたしの作品の全系列の中にあっても類の少い位置をこの作品に与えている。 風知草は、絵画で云えば、一篇のクロッキーであると云ってさしつかえない。クロッキーはデッサンではない。クロッキーにおいて細・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・漱石の作品の全系列が人と一つのものとして、わかったという気持で映って来る。作品がどれ程巨大であり多量であろうとも、作者の質量そのものの中にあってわかった感じがするものである。作家の資質のよさわるさ、大きさ小ささ、それなりにその人を見ると何か・・・ 宮本百合子 「作品の血脈」
・・・現実の推移をその受動性のために最もあからさまに映してゆく女性が、系譜的な作品にとって、てっとりばやい主人公とされていたことに、この系列の文学の弱さが語られた。系譜的作品が時代と人との意欲から生れる発展的な生活の物語とならず、いわば流転譚の域・・・ 宮本百合子 「作品の主人公と心理の翳」
・・・ リアリズムと云えば自然主義の系列の些末主義の範囲で規定して、そこからの脱出をロマンティシズムに見るような、今日の時代の性格へのかかわりあいかたにこそ、今日の文学の弱い部分があらわれているのだと思う。作家が、自己というものを百万人の一人・・・ 宮本百合子 「作家と時代意識」
・・・によって先頭をきられた一系列の作家の作品の出現によって愈々暗鬱なものとなった。転向文学という一時的な概括で云われたこれらの作品の特徴は、知識人としての作者たちが時代の中に経た生活と思想経験の歴史的な価値と意味とを我から抹殺して、一つの理想に・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・は、詩から小説へ移る間の足がかりとして、藤村の全作品の系列の中に深い意味を保つものである。この時代、日本文学の動きのうちにホトトギス派の写生文の運動がおこり、現実生活と芸術との関係についての理解がロマンティック時代の解釈を脱しつつあった。・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・をかき、その系列として「妻の座」を生んだことには、軽く通りすぎてしまうことのできない意味がみとめられる。「妻の座」は、題材の困難さも著しい。作者自身としては題材のむずかしさ、苦しさに力の限りとっくんでゆく努力に自覚をあつめているうちに、・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・更に小林多喜二が持っていた勘は、前者が二様であっても大別一系列の中に包括し得る性質であるに反して、その本質を異にしていた。これは、誰にとっても極めて理解しやすい実例であると思う。 今日ほど、文学の動揺が甚しかったことはなかった。文学に思・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・はこの作家の創作系列の中で風の変った一作であり、新感覚派的手法の試みであり、またこの作家の資質にとって不自然な作品の一例とみられる。「水晶幻想」は即物的な表現のうちに、素朴な唯物的実在の感覚と心理のニュアンスを綯いあわせた、というよりもむし・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫