・・・「何事にたいしても仮借しないむきな純一しか持ち合わせていない」と力をこめていい切って、しかも「娘の夢」といわれているもののロマンティックな扮装については自分の内の矛盾として見きわめようとしていない態度を、今日の青年もやはり彼らの夢を育ててく・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
・・・美しく純一であろうとする願望に偽りはないが、作家として見れば正しさをこの世に求める創ろうとする動きの肯定に対する決定的な弱さがそこに在るのである。「クヌルプ」には、この作家の弱点というべきものが典型を示していて、人間の生命の浪費が、当然・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
・・・ 戦いの態度の純一は、複雑な内生よりも、単純な迷いのない生活にはるかに起こりやすい。それゆえただ純一のゆえに意を安めてはいけない。純一の態度に固執する者はともすれば内容を空疎にする。 私はある冬の日、紺青鮮やかな海のほとりに立った。・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・ このことにはっきりと気づいたのは、漱石の死後十年のころに、ベルリンで夏目純一君に逢ったときである。純一君は漱石が朝日新聞に入社したころ生まれた子で、漱石の没したときにはまだ満十歳にはなっていなかった。木曜会で集まっている席へ、パジャマ・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
・・・この範囲でJは態度の純一を欠かない。彼は官能享楽にのみ価値を認めて、誠実にそれを徹底させる。製作においては決して嘘をつかない。彼の製作の趣味が低劣だという批評は倫理的立場からくるのであって彼の態度の不純によるのではない。それに比べると趣味が・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫