・・・の前提とすべき与件の判定は往々にして純正物理学の範囲を超越する。それ故に物理学者の考える地震というものは結局物理学の眼鏡を透して見得るだけのものに過ぎない。 同じく科学者と称する人々の中でも各自の専門に応じて地震というものの対象がかくの・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・理智で考へながら読むやうな文学は、純正の意味で「詩」とは言へないのである。しかし流石にその二三の作品だけは、ニイチェでなければ書けない珠玉の絶唱で、世界文学史上にも特記さるべき名詩である。特に「今は秋、その秋の汝の胸を破るかな!」の悲壮な声・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・この二人の作家の間にある違いは多くの要因を持っていますが、一つは明らかに純正な人間の叡智の敗北の悲劇を自覚したものと、バルザックのようにそれは自覚しなかった作家との違いだと思います。文学の精神の相異がここに何とはっきり出ているでしょう。カロ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・でも、ジイドは作家としての「自分の中に持っているもので、自分には最も純正で、最も価値あり、最も健全であると思われるものが、すべて周囲の因習、習慣、虚偽と忽ち、そして直接に矛盾衝突した」、「思うに我々が今なお住んでいるこの資本主義社会では、凡・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・そう云う場合、その人は活動して却って純正な意味の心の持ち方に於て低下しまいものでもありません。 働くと云うことは、本当によいことに違いないのだけれども、人生には、ただ上ずみで其日其日働いているだけではどうにもならないことがあります。それ・・・ 宮本百合子 「自分自分の心と云うもの」
・・・あらゆる箇性の天分を涵養することを以て主眼とする学校教育は、彼女に希望を表現するに適当な手段方向を教えましょう。純正な宗教観から見れば、とかく云うべきことはあっても教会は、徒に狭い階級的、種族的生活からは一段高く、人類の心から人生を観ること・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 黄檗の建物としてはどちらが純正なものなのか。或は唯造営者の気稟の相異だけでこうも違うのか。私共は解答者を得ない疑問を持ち合ったまま、再び山門を出た。唐門の剥落した朱の腰羽目に、墨でゴシック風の十字架の落書がしてあった。木庵の書、苑道生・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・の団体は指導勢力をより純正な革命作家連盟にゆずった。「同伴者」から脱退し、自己批判を遂げてラップに参加した作家も少くない。 日本のように、資本主義独裁と白色テロールの旺盛なところで、階級闘争は激化し、イディオロギー的差異は有無を云わせず・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・芸術のこととして、また純正な絵画の美を少女たちの感性に高め導いてゆくためにああいう絵が何かの価値をもっているかと云えば、それは決して積極的な意義はもっていないと思える。渡辺与平、竹久夢二などがその時代の日本の空気のもっていた女の解放へ目をむ・・・ 宮本百合子 「日本文化のために」
・・・けれども日本の科学の真の発展向上の推進力としては科学上の技術家がふえるばかりでなく、科学の精神というものが、その純正な存在で広く一般に普及されてゆかねばなるまいと思う。婦人の常識に科学性の不足していることもとりあげられるが、たとえばごく身近・・・ 宮本百合子 「私の感想」
出典:青空文庫