・・・ 司会者の何か特別な意図がふくまれていたのであろうか、 祝宴の主人公であるその画家の坐っている中央のテーブルは、純然の家族席としてまとめられている。夫人、成人して若い妻となっている令嬢、その良人その他幼い洋服姿の男の子、或は先夫人か・・・ 宮本百合子 「或る画家の祝宴」
・・・この生活苦にあえぎ、悪税・物価高にあえぎながら、日本人の大多数がなお無条件に純然たるブルジョア政党、反民主政党を第一位に支持しているのだとすれば、その政治に対する無知と無判断なならわしは救うにかたいと悲しむにちがいない。日本の民衆が、永年の・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・これは純然たる社会主義都市計画によってつくられた町だ。 明るい、電化された大工場を中心に共同食堂がある。消費組合売店ではラシャの布地まで扱っている。托児所、学校、革命の家、病院は建築中だ。案内の若い、労働通信員をしている技師と工場内の花・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・消耗をいとわぬロシア人のうねりの大きな純然たるロシア的不便さだ。 ○日 ファイエルマンがこういう話をした。レーニングラード附近の或田舎での出来事だ。 誰かが七歳と四歳になる二人の女の児を雪の深い森へ連れ込み零下十何度という厳・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・人間として根本から純然たる感覚活動をなし得るものがあるなら、その者は動物に他ならない。悟性活動をするものが人間で、その悟性活動に感覚活動を根本的に置き代えるなどと云うことは絶対に赦さるべきことではない。或いは彼らの感覚的作物に対する貶称意味・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・さらに純然たる幻想の物語を、すなわち雨月物語を、画に翻訳しようとする努力もある。たまたま我々の目前にあるものを描くとすれば、それは模様のごとく美化された掃きだめである。あるいは全然装飾化された菜園である。そこに現われたのは写実によって美を生・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・もしそれが、ローマを襲ったキリスト教のように、単にただ純然たる宗教であったならば、あれほど激烈にわが国の文化全体を動かし得たかどうかは疑わしい。我らの祖先は当時なお、一つの偉大な宗教をただ宗教として、あるいは一つの偉大な思想をただ思想として・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・で、彼らは乗り気になって、自分がある事を言いたいからではなく読者がある事を聞きたがっているゆえに、その事をおもしろおかしくしゃべり散らす。純然たる幇間である。またある人はただ創作のためにのみ創作する。彼らの内には、生を高めようとする熱欲も、・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
・・・この作においては利己主義はついに純然たる自己内生の問題として取り扱われている。私は利己主義の悪と醜さとをかくまで力強く鮮明に描いた作を他に知らない。また執拗な利己主義を窒息させなければやまない正義の重圧の気味悪い底力も、前者ほど突っ込んでは・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫