・・・彼は純金の獅子を立てた、大きい象牙の玉座の上に度々太い息を洩らした。その息は又何かの拍子に一篇の抒情詩に変ることもあった。わが愛する者の男の子等の中にあるは林の樹の中に林檎のあるがごとし。…………………………………………・・・ 芥川竜之介 「三つのなぜ」
・・・その中に鉄煙管の吸口に純金の口金の付いたのがあって、その金の部分だけが螺旋で取り外ずしの出来るようになっていた。羅宇屋に盗まれる恐れがあるので外ずして渡す趣向になっていたものらしい。子供心に何だかそれが少しぎごちなく思われた。そのせいでもな・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・例えば鉱のように種々な異分子を含んだ自然物でなくって純金と云ったように精錬した忠臣なり孝子なりを意味しております。かく完全な模型を標榜して、それに達し得る念力をもって修養の功を積むべく余儀なくされたのが昔の徳育であります。もう少し細かく申す・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
出典:青空文庫