・・・作家の思いは、原稿紙がなくなればどんな紙切れへでも、その紙切れへものをかくような時代の作品を書こうと思っているのでしょう。歌をうたうかたは、唱って寒さもふきとばそうと思っていらっしゃるでしょう。そこがそれぞれ面白いところですね。けれども、ど・・・ 宮本百合子 「裏毛皮は無し」
・・・ 私の如何か成って居た心持に、此程の動揺を与えられたと云う点から、私はどの位、此の小さい僅かの紙切れに感謝する事だろう。従って、その感謝は、其を書かれた芥川氏にも、其を私の手にまで運んで来た総ての機会にも、当然捧げられるべきものであろう・・・ 宮本百合子 「無題」
・・・ 自分は夕方、紙切れを握って塩漬キャベジの匂いのする食糧販売店の減った石段をトン、トン、トンと下りて行った。 紙切れを見ては、あやしい発音でイクラを買った。漬胡瓜を買った。 ハムを買った。 黒田君の買って来た樅の木は小ぢんま・・・ 宮本百合子 「モスクワの姿」
・・・ 木村は高い山の一番上の書類を広げて、読んで見ては、小さい紙切れに糊板の上の糊を附けて張って、それに何やら書き入れている。紙切れは幾枚かを紙撚で繋いで、机の横側に掛けてあるのである。役所ではこれを附箋と云っている。 木村はゆっくり構・・・ 森鴎外 「あそび」
出典:青空文庫