・・・その人相を見るに、これは夫婦ぐらしで豆屋を始めて居て夫婦とも非常な稼ぎ手ではあるが、上さんの方がかえって愛嬌が少いので、上さんはいつも豆の熬り役で、亭主の方が紙袋に盛り役を勤めて居る。もっともこの亭主は上さんよりも年は二つ三つ若くて、上さん・・・ 正岡子規 「熊手と提灯」
・・・ケースの上に菊の花を刷って、菊見せんべいと、べいの二つの字を万葉がなで印刷したり、紙袋が大小順よくつられている。菊見せんべいを買いにゆくと、店番が、吊ってある紙袋を一つとって、ふっとふくらまし、一度に五枚ずつ数えてその中に入れ、へい、とわた・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・そうして、幸運の手紙を廻り出させる世の中のありようを保管しておく紙袋はどこにあるとも思えないのだろう。〔一九三九年八月〕 宮本百合子 「幸運の手紙のよりどころ」
・・・この本も、他の多くの仲間とともに二年後には南京豆の紙袋と化して夜店に現れるだろうか。くだらない本だろうか。私はそうは思わぬ。この本が、ボリソフから届いて始めて訳者の机の上に載せられた時から、我々は共通な興味を感じた。彼女は翻訳する気になった・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・ 重吉が網走からもってかえって来た人絹の古い風呂敷包みの中には、日の丸のついた石鹸バコ、ライオンはみがきの紙袋、よれよれになった鉄道地図、そして、一まとめに大事にくくった書類が入っていた。その束の中に、一通の電報があった。デタラスグカエ・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・まだ猫に紙袋よ」 笑いながら桃子が大きい声を出した。「ほう」 また咳払いをする声がする。「はい、どうぞ」「やがて尚子が自分から幸治のために襖をあけてやった。「や、しばらくでしたね」 袷の対を着て、きっちり髪をわけ・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
出典:青空文庫