・・・くだらない偶然で紛糾をひきおこすことは避けるだけの実際性にも富んでいることが生活態度としてある貴いものを与えることにもなるのであると思う。 友情という二つの文字は簡単だが、そこにこめられてある内容は何と複雑だろう。まして、異性の間に友情・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・ 日本の女性が、両性の友情の間で紛糾を生じがちなのは、我知らずそこに、自分たち日常の現実にあらわれている関係のきまった男との間に在るいきさつとは異った気分、より圧迫の少い、女としてより負担と責任との軽い、それゆえより人間として自分を溌剌・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・私の文学的教養と力量とが、この紛糾と錯綜を、明確に洞察し、整理し得るであろうか。少なからぬ困難が予想されるが、私は読者の忍耐と誠意と自身の熱意とに信頼して、この仕事をやって見る。この人生に明らかな知性と豊かで健全な人間的情熱の発動を熱望する・・・ 宮本百合子 「意味深き今日の日本文学の相貌を」
・・・原作は遙に現実の仮借なさを描いていて、王龍は蓮英を追っぱらおうなどせず阿蘭は依然として紛糾する家庭の中で王龍に先立たれて了うのである。「大地」の監督に当ったシドニー・フランクリンは、ムニやライナーを東洋人として演じさせるためにこまかい注・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・ 一九三三年はこういう時期であった一面に、プロレタリア文学運動は最後的な紛糾状態におかれていた。林房雄その他の人々によって、それまでのプロレタリア文学運動の指導方針の政治的偏向ということが一方的に云いたてられ小林多喜二の虐殺によっておじ・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・かくれてはいるけれども、何かの折にはその尻尾が事物の進行のバランスを狂わせて人間生活の紛糾や混乱をもたらす動機となっている。迷信だの、いろいろの事に対する偏見というものから今日人間が全く自由になっているということは決していい切れないのが実際・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・そのことで紛糾している。施政方針を語らないままで、公務員法案は一気にとおそうとしている。そういう妙なことは何の基盤で出来るのだろうか。吉田は腹の出来た政治家と云われている。事務的に科学的にものごとを処理する人柄よりも、ワッハッハという笑いか・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・、その半面では、モーロアの本質がつまりダラディエやレイノーとそう大して違ったものでもないこと、それだからこそ現象の説明は皮相な政界内幕の域を脱し得ていないこと、従って、当時のレイノーにその社会的な矛盾紛糾を解く方策が見出せなかった瞬間にはモ・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・文芸懇話会賞は、その会の性質が半政治的であったから、詮衡に当っても、文学作品としてのめやすに加わる様々の文学以外の条件があって、内部の紛糾は世人の目前にもあらわれた。 事変以来、日本の文学の姿は実に複雑となって来ている。例えば日露戦争の・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・今日一般に歴史的な読書への傾きがつよめられて来ているが、その原因には、目前の無説明な、紛糾に対して何とか会得の筋道を見出したい切実な要求も動いている。 系譜的作品に向う必然にそういう要因のあることもわかるけれども、それならばと云って、多・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
出典:青空文庫