・・・彼は散文では現わされないものだけを詩の素材とすべきだと考えた。そうして「ホーマーのおかげで詩は横道に迷い込んでしまった。ホーマー以前のオルフィズムこそ正しい詩の道だ」と言ったそうである。 この所説の当否は別問題として、この人の言う意味で・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・それにも係わらず、多数の日数を含む統計的素材を統計的に取り扱う場合には、これらの個々の場合は問題とならず、ただ平均の関係だけが結果として現われるであろう。降雨のほうでは、全雨量の平均幾割幾分が開場時間に落ちるかが定まり、また外出する市民の平・・・ 寺田寅彦 「物質群として見た動物群」
・・・一に根気二に根気で集輯した素材を煉瓦のように積んで行くのである。 探険家シャックルトンがベルリンへ来たときペンクの私邸に招かれ、その時自分も御相伴に呼ばれて行った。見知らぬ令夫人を卓に導く役を云い付かって当惑した。その席でペンクは、本日・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・そうだとすれば、ラジオによる音響放送の素材の適当なる取り合わせ、配列によって一種の芸術的モンタージュ放送を創作することが充分可能なわけであろう。 もっとも、従来行なわれたラジオドラマふうのものの中には、やや前記のモンタージュに類する要素・・・ 寺田寅彦 「ラジオ・モンタージュ」
・・・ 以上はただ付け句の素材だけについての選択の過程であって、それの表現法いかんについてはさらにまた全然別途の主要な作業が始まるわけであるが、そういう方面の問題はこの項ではいっさい触れないことにしようと思う。ともかくも普通はまず素材がきまっ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・溝口氏が益々奥ゆきとリズムとをもって心理描写を行うようになり、ロマンティシズムを語る素材が拡大され、男らしい生きてとして重さ、明察を加えて行ったらば、まことに見ものであると思う。〔一九三七年六月〕・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・為に、あれ丈文化的価値を裏に持った素材が、明かにこなされ切れなかった。 時に、彼の精神の或面に、私が、物足りなさによる侮蔑に近いものを感じたのは争われない。何か、この先もう一つ、吹っきれば素晴らしいのが見えて居るのに、いさぎよくそこまで・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・その時に当って、各作家が自身のものとして示した生きかたの萌芽が、すでに、この大正初頭の、歴史的素材へ向う各作家の態度のうちに含まれていたということは、歴史的文学のこととして今日私たちに実に教うるものが多い点だと思う。「地獄変」「戯作三昧・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ジャーナリスト出身のペトロフが素材をあつめることを主に働き、詩人であるイリフが作品として書きあげてゆくという、新しい仕事ぶりで七年ほど前に完成された作品である。 主人公はオスタップ・ベンデルという山師で、北極飛行で世界に有名なシュミット・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・この作品によって、素材の規模の大きさやそれを扱う手腕を認められた作者は、「生きている兵隊」では、当時文壇や一般知識人の間に問題とされていた思想の諸課題、例えばヒューマニズムの問題、知性の問題、科学性の問題などをそのまま職場へ携帯して行って、・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
出典:青空文庫