・・・ルニクは、広い同盟の四方へ出かけ、そこへ文化の光をふりまくと同時に、そこにはじまっている農村または新工場都市の全然これまでとはちがう新しい社会生活、生産労働の形態から発生する心理を、めいめいの芸術の新素材として吸収しようとしたのであった。・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・丹羽文雄が主体性ぬきの現実反映のリアリズムからぬけ出て、少くとも歴史の前進する角度をふくんだドキュメンタリーな作品へ進もうとして、一九四九年にはその素材の選択そのものにおいて、まず歴史的なふるいわけが必要であることを発見したと思われる。「塩・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・子供のための文学の仕事をする作家は、小さい民衆が自由奔放に造る言葉、表現に対して、ひろい感受性をもつと同時に、それらの言葉を芸術の素材とし、取捨し、高める必要がある。 営々たる人類の進歩のための努力の結果は、将来、婦人の生活により多くの・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・この複雑雄大なテーマと素材を、その隅々まで描写しつくしたらば、作品は現在あるより少くとも倍の長篇になるべきであった。才能と精力ゆたかな新人間ゴルバートフが十分の時間をもたなかったのは、くれぐれも残念だと思う。〔一九四六年九月〕・・・ 宮本百合子 「ゴルバートフ「降伏なき民」」
・・・ 作年は素材主義の荒っぽさに対して、文学の文学性が再び顧みられたにつれて、短篇の真実さが見なおされた。長篇が本質の貧寒さから、時流におされて素材で押し出す傾に陥った対症として、作家が真のモティーヴをもって描く短篇のうちにのこされた文学性・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・よしんば一作家がそれに充分の芸術的力量を持ち、素材も持ち、歴史の見通しを持っているとして尚その可能を疑わせる特別な事情が今日の日本に支配している。単純に個々の作家の才能の力で解決し突破することの出来ない柵がある。客観小説を提唱する人々が今日・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・いずれもこれ等の作品は素材の広汎さ、行動性、溌溂さを求めている作者の意企がうかがわれるにもかかわらず、共通にそれらの作品の現実をつきつめて見ると作者の心の中でつくられまとめ上げられているものであるという実際は、深い示唆を含んでいると思う。こ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 当時文学が新しい素材の源泉とリアリズムの深化の契機を報告文学に求めようとしたことと、そこに見出された不満との関係は、その数年来文学が転々して来た動向から見て必然な結果のあらわれであったといえよう。報告文学がそのものとして独自の人間記録・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・これらの本は、文学では生産文学、素材主義の文学が現れて生活の実感のとぼしさで人々の心に飢渇を感じさせはじめた時、玄人のこしらえものよりも、素人の真実な生活からの記録がほしいという気持から、女子供の文章の真率の美がやや感傷的に評価されはじめた・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・しかし、文学はそんなものからさえも、彼らもまたかかる科学的な一個の物体として、文学的素材となり得ると見る。此の恐るべき文学の包括力が、マルクスをさえも一個の単なる素材となすのみならず、宇宙の廻転さえも、及び他の一切の摂理にまで交渉し得る能力・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
出典:青空文庫