・・・ 自分も子供固有の好奇心から何度か祖母に教わったこの糸車で糸を紡ぐまねをした記憶がある。綿を「打った」のを直径約一センチメートル長さ約二十センチメートルの円筒形に丸めたものを左の手の指先でつまんで持っている。その先端の綿の繊維を少しばか・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・糸を紡ぐこと、織ること、そしてそれを体にまとえるように加工することは非常に古い時代から女のやることであった。これはギリシア神話の中のアナキネという話の物語にでも推察される。アナキネは大変美しく可愛い娘で、織物を織ることが上手であった。みごと・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・安寿は糸を紡ぐ。厨子王は藁を擣つ。藁を擣つのは修行はいらぬが、糸を紡ぐのはむずかしい。それを夜になると伊勢の小萩が来て、手伝ったり教えたりする。安寿は弟に対する様子が変ったばかりでなく、小萩に対しても詞少なになって、ややもすると不愛想をする・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫