・・・ちょうど人間が胎児であったとき、その成長の過程で、ごく初期の胎生細胞はだんだん消滅して、すべて新しい細胞となって健康な赤ん坊として生れてくる。けれどももし何かの自然の間違いで、胎生細胞がいくつか新しくなりきらないで、人間のからだの中にのこっ・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・ 一つの学校の中で、優秀な細胞があり、自治会があり、そこに属す学生はすべて頭脳明晰だということだけが、その学校全体の学生の精神水準を示すとは云いきれないし、日本の青年の進歩の総和的な標準だとはいえません。東大でも、伊藤ハンニまがいの山師・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・打ちよせ 打ち返し轟く永遠の動きは鈍痲し易い人間の、脳細胞を作りなおすまいか。幸運のアフロディテ水沫から生れたアフロディテ!自ら生得の痴愚にあき人生の疲れを予感した末世の女人にはお身の歓びは 分ち与えられないのだ・・・ 宮本百合子 「海辺小曲(一九二三年二月――)」
・・・大鎌の奇怪なる角度より発散する三角形の光りの細胞は舞上り舞下りて闇黒の中に無形の譜を作りて死を讚美し祝し―― おどり狂う――大鎌をうちふりうちふりてなぎたおされんものをあさりつつ死は音もなく歩み・・・ 宮本百合子 「片すみにかがむ死の影」
・・・一九四六―七年、日本の全産業面に労働組合が組織され、そこに党細胞が公然と活動しはじめたことは日本の労働者、勤労者すべてにとって全く新しい歴史のはじまりであった。そして、この期間は同時に、戦時中最悪の労働条件に虐使されて来た勤労男女が、基本的・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・そこはホテルに働くものの為の休息室、食堂、職業組合のメストコム、党細胞で、一隅には赤布で飾った小図書部「赤い隅」がある。文盲者率の最も高い人民栄養労働者が彼らの文化革命と社会主義建設を達成すべき細胞である。 廊下を通る日本女の空色ヤカン・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・そして、これは決して、文学の専門的な何かを前提とするものではなくて、作家と作品の間にある血液循環、細胞関係の必然の結果であり、人間的な総括的な直感である。この事実は日頃あらゆる人々の経験しているところであると思う。 かの子さんの小説は、・・・ 宮本百合子 「作品の血脈」
・・・染色体はそれを包蔵する細胞の健康状態と勿論結びついた関係にある。互に、夫は妻を強度のヒステリーと呼び、妻はその夫を性格破産者類似のものとして公表するような今日の増田氏の夫婦関係は、果して二十八年前、健全な結合におかれてあったのであろうか。今・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・わたしの講演をきいて入党したといっているひとが世田ヶ谷のある細胞にいるそうだ。『われらの仲間』にあの話のテーマで原稿をもとめ、それは職場の人の、あの話をきいてふっきれなかったところがよくわかった、という手紙ととともに発表されるだろう。これが・・・ 宮本百合子 「事実にたって」
・・・哀訴や、敏感や、細胞の憂愁は全く都会人、文明人の特質で古代の知らない病であると云うかもしれない。然し、等しく、此等は人類の心の過程ではありませんか我々は、彼の素朴と敏感とを並び祖先に持つ我々は其等を皆、我裡に感じる。・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
出典:青空文庫