・・・ 谷崎氏の「細雪」は大阪弁の美しさを文学に再現したという点では、比類なきものであるが、しかし、この小説を読んだある全くズブの素人の読者が「あの大阪弁はあら神戸言葉や」と言った。「細雪」は大阪と神戸の中間、つまり阪神間の有閑家庭を描いたも・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・日配の統計の純文学では「細雪」が第一位です。わたしたちはここでもやっぱり客観的でなくてはいけないと思います。前に、日本の新しいファシズムの一つの現れとして、ルポルタージュに名をかりた戦記もの、秘史に名をかりた皇道主義軍国主義の合理化的宣伝の・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・そして「細雪」は「天然色映画のようにたっぷりして、刺戟がなくて、たのしめるもの」として数十万部をうりつくしていると語られている。ある種の人々は、日本の現代文学を植民地化される人民の日常生活のふち飾りと化して、現実の生活では見たこともないのび・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・「宮本武蔵」や「親鸞」「風とともに去りぬ」「細雪」「流れる星は生きている」などが多くの票を占めるという結果をもたらした。毎日文化賞の準備調査では、文学の部で「親鸞」がトップであったが、詮衡委員会は「中島敦全集」をおした。 ところで、・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 老いるに早い日本の文学者たちが、六十歳にも近づけば、谷崎潤一郎の「細雪」のようにきょうの一般の現実には失われた世界の常識にぬくもって、美文に支えられているとき、野上彌生子が、「迷路」にとりくんでいることは注目される。「青鞜」の時代、ソ・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・たとえば「細雪」の世界のように。それとも、今日いわゆる中間小説というものを書いておびただしい収入を得ている作家のある人たちが生きているように、そのふんだんな経済力で、妻をはじめ一家のなかをにぎやかに満足させて、非難をおさえておきさえすれば自・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
出典:青空文庫