・・・門はまだ閉まっているし、時計台の針は終業の五時に少し間がある。ド・ド・ド……。まだ作業中のどの建物からもあらい呼吸づかいがきこえているが、三吉は橋の上を往復したり、鉄門のまえで、背の赤んぼと一緒に嫁や娘をまちかねている婆さんなぞにまじって、・・・ 徳永直 「白い道」
・・・コンクリがすんで終業時間になった。 彼は、ミキサーに引いてあるゴムホースの水で、一と先ず顔や手を洗った。そして弁当箱を首に巻きつけて、一杯飲んで食うことを専門に考えながら、彼の長屋へ帰って行った。発電所は八分通り出来上っていた。夕暗に聳・・・ 葉山嘉樹 「セメント樽の中の手紙」
・・・この時丁度、向うで終業のベルが鳴りましたので、先生は、「今日はここまでにして置きます。」と云って礼をしました。私は校長について校長室に戻りました。校長は又私の茶椀に紅茶をついで云いました。「ご感想はいかがですか。」 私は答えまし・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・ 二年目の終業式がすんだ日、お家に帰ると政子さんは袴をはいたまま、芳子さんのお部屋に来ました。 そして芳子さんの前に坐ると、心から、「芳子さん、どうぞ勘弁して頂戴」と申しました。 学校で戴いた修業証書を見ていた芳子さんは、其・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・十一時に終業すると、文選場で一同勢ぞろいをして、カントクのところへ残りの仕事をひっつかんでデモで押しかけた。これでかって、十八人になり、二人の文選長も入った。 次に夜業四割引反対の闘争のために、全員をまき込むことを考え、親睦会の自治化を・・・ 宮本百合子 「大衆闘争についてのノート」
・・・明治三十二年に女学校令というものがきめられて以来、女学校と中学校とは同い年で小学校を終った男の子と女の子のための学校でありながら、五年を終業したときの程度は、ずっと女の子の方が万事について低いものとして肯定されて来ている。専門学校、大学とい・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
出典:青空文庫