・・・事によると、同業組合の一人かも知れない。何です、君の専門は?」「史学科です。」「ははあ、史学。君もドクタア・ジョンソンに軽蔑される一人ですね。ジョンソン曰、歴史家は almanac-maker にすぎない。」 老紳士はこう云って・・・ 芥川竜之介 「西郷隆盛」
・・・ つまり今後の諸君のこの土地における生活は、諸君が組織する自由な組合というような形になると思いますが、その運用には相当の習練が必要です。それには、従来永年この農場の差配を担任していた監督の吉川氏が、諸君の境遇も知悉し、周囲の事情にも明ら・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・ 口を極めてすでに立ち去りたる巡査を罵り、満腔の熱気を吐きつつ、思わず腕を擦りしが、四谷組合と記したる煤け提灯の蝋燭を今継ぎ足して、力なげに梶棒を取り上ぐる老車夫の風采を見て、壮佼は打ち悄るるまでに哀れを催し、「そうして爺さん稼人はおめ・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・その頃は何に由らず彩色人の摺物は絵双紙屋組合に加入しなければ作れなかったもので、喜兵衛はこれがために組合へ加入して、世間の軽焼の袋が紅一遍摺であるに反して、板下に念を入れた数遍摺の美くしい錦絵のような袋を作った。疱瘡痲疹の患者は大抵児供だか・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・というのは散髪の職人の組合のようなもので、口入れも兼ね、どこの店で働くにしてもそれぞれの「部屋」の紹介状がなければ雇ってくれない、だから「部屋」を追いだされた自分はごらんの通りのルンペンになっているが、今度新しく別の「部屋」に入れて貰うこと・・・ 織田作之助 「世相」
・・・もうヤトナ達の中でも古顔になった。組合でも出来るなら、さしずめ幹事というところで、年上の朋輩からも蝶子姐さんと言われたが、まさか得意になってはいられなかった。衣裳の裾なども恥かしいほど擦り切れて、咽喉から手の出るほど新しいのが欲しかった。お・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・村役場から配布される自治案内に、七分搗米に麦をまぜて食えば栄養摂取が十分になって自から健康増進せしむることができると書かれてあって、微苦笑を催させずに措かなかったのはこの二月頃だったが、産業組合購買部から配給される米には一斗に二升の平麦が添・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・その時、強力だった農民組合が叩きつぶされた。そのまゝとなっている。 なんにもしない、人間を、一ツの警察から、次の警察へ、次の警察から、又その次の警察へ、盥廻しに拘留して、体重が二貫目も三貫目も減ってしまった例がいくらでもある。会合が許さ・・・ 黒島伝治 「鍬と鎌の五月」
・・・警戒兵としての経験からくるある直感で、ワーシカは、すぐ、労働組合の労働者ではなく、密輸入者の橇であると神経に感じた。銃をとると、彼は扉を押して、戸外へ躍りでた。扉が開いたその瞬間に、刺すような寒気が、小屋の中へ突き入ってきた。シーシコフもつ・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・ 労働組合に居ったというので二等兵からちっとも昇級しない江原は即座にそれを否定した。「でも、大砲や、弾薬を供給してるんじゃないんか?」「それゃ、全然作りことだ。」「そうかしら?」 大興駅附近の丘陵や、塹壕には砲弾に見舞わ・・・ 黒島伝治 「チチハルまで」
出典:青空文庫