・・・ 結婚式場のぎょうぎょうしくて派手で、それでいて実に陰惨でグロテスクな光景もよくできている。ここでポリーの歌う Barbara Song はなかなか美しい。セットのおぼろ夜の空とおぼろ月がかえって本物より効果がいいようである。 情婦・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・一つは雨夜の仮の宿で、毛布一枚の障壁を隔てて男女の主人公が舌戦を交える場面、もう一つは結婚式の祭壇に近づきながら肝心の花嫁の父親が花嫁に眼前の結婚解消をすすめる場面である。 婦人の観客は実にうれしそうに笑っていたようである。こういうアメ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・という映画で、南洋土人の結婚式に、犠牲の鶏を殺してその血をちょっぴり鉢にたらし、そうして、その血を新夫婦が額に塗りまた胸に塗る場面があった。今度インド婦人の額の紅斑を見たときになんとなくそれを思い出して、何か両者の間に因縁があるのではないか・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・彼女は紙巻工であった深水の嫁さんの同僚で、深水の結婚式のとき、てつだいにきていた彼女を、三吉は顔だけみたのである。「どうだあの子、いままで男なんかあったか?」「そんなこと――」 くっくっと嫁さんは笑いこけている。――ないでしょう・・・ 徳永直 「白い道」
・・・いよいよあさってが結婚式という日の明方、カン蛙は夢の中で、「今日は僕はどうしてもみんなの所を歩いて明後日の式に招待して来ないといけないな。」と云いました。ところがその夜明方から朝にかけて、いよいよ雨が降りはじめました。林はガアガアと鳴り・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
・・・何とかいう十九歳の百万長者の息子とこれも同様な大金持の十六歳の娘とがニューヨークで盛大極る結婚式を挙行してセンセーションを捲き起したというのである。愛すこと、結婚生活を営みたく思う心、そして父母とならんとする希望は、然しながら、百万長者の子・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
この間、『サン』を見ていたら、福島県のどこかの村の結婚式の写真が出ていた。昔ながらの角かくしをかぶって裾模様の式服を着た花嫁が、健康な農村の娘さんらしい膝のうずたかさでかしこまって坐っている。婿さんの方は、洋服姿で、これも・・・ 宮本百合子 「指紋」
・・・を教会が「神聖な結婚式」で祝福していたかということはイギリスの有名な諷刺画家ホーガースの作品に辛辣に示されている。中流的なイギリス人の家庭で体面と打算とを両立させた「ちゃんとした結婚」をするためにどんな滑稽なひそひそ騒ぎが演じられるかという・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
出典:青空文庫