・・・一度左近が兵衛らしい梵論子の姿に目をつけて、いろいろ探りを入れて見たが、結局何の由縁もない他人だと云う事が明かになった。その内にもう秋風が立って、城下の屋敷町の武者窓の外には、溝を塞いでいた藻の下から、追い追い水の色が拡がって来た。それにつ・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・それを知っている友だちは、語り完らない事を虞 それから、写真はいろいろな事があって、結局その男が巡査につかまる所でおしまいになるんだそうだ。何をしてつかまるんだか、お徳は詳しく話してくれたんだが、生憎今じゃ覚えていない。「大ぜいよっ・・・ 芥川竜之介 「片恋」
・・・しかし彼ならばそれを耳にはさんで黙っているだろうし、そしてそれが結局小作人らにとって不為めにはならないのを小作人たちは知りぬいているらしかった。彼には父の態度と同様、小作人たちのこうした態度も快くなかった。東京を発つ時からなんとなくいらいら・・・ 有島武郎 「親子」
・・・小宮山はあッとばかり。 ちょいと皆様に申上げまするが、ここでどうぞ貴方がたがあッと仰有った時の、手附、顔色に体の工合をお考えなすって下さいまし。小宮山は結局、あッと言った手、足、顔、そのままで、指の尖も動かなくなったのでありまする。・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・ ほとんど口の先まで出たけれど、僅かにこらえて更に哀願した。結局避難者を乗せる為に列車が来るから、帰ってからでなくてはいけないということであった。それならそうと早くいってくれればよいのだ。そうして何時頃来るかといえば、それは判らぬという・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・――おれは受け合っておくが、お前のように気の多い奴は、結局ここを去ることが出来ずにすむんだ」「いやなこッた!」立ち上って、両手に膳と土瓶とを持ち、「あとでいらっしゃい」と言って二階の段を降りて行った。下では、「きイちゃん、御飯」と、・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・当時の印刷局長得能良介は鵜飼老人と心易くしていたので、この噂を聞くと真面目になって心配し、印刷局へ自由勤めとして老人を聘して役目で縛りつけたので、結局この計画は中止となり、高橋の志道軒も頓挫してしまった。マジメに実行するツモリであったかドウ・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ 結局、この争いは、果てしがつかなかったのです。「今日は、どちらが早いかよく気をつけていろ!」と、製紙工場の煙突は、怒って、紡績工場の煙突に対っていいました。「おまえも、よく気をつけていろ! しかし、二人では、この裁判はだめだ。・・・ 小川未明 「ある夜の星たちの話」
・・・私という人間はどんな環境や境遇の中に育っても、結局今の自分にしかなれなかったのではないでしょうか。いや、私のような平凡な男がどんな風に育ったかなどという話は、思えばどうでもいいことで、してみると、もうこれ以上話をしてみても始まらぬわけだと、・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ ――無気力な彼の考え方としては、結局またこんな処へ落ちて来るということは寧ろ自然なことであらねばならなかった。(魔法使いの婆さんがあって、婆さんは方々からいろ/\な種類の悪魔を生捕って来ては、魔法で以て悪魔の通力を奪って了う。そして自・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
出典:青空文庫