・・・いずれ結末には美術とか文学とか御互に縁の深い方面へずり落ちて行く事と安心して聴いていただきたい。――ただいま正木会長の御演説中に市気匠気と云う語がありましたが、私の御話も出立地こそぼうっとして何となく稀有の思はあるが、落ち行く先はと云うと、・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ 私とても、言葉の上の皮肉や、自分の行李を放り込む腹癒せ位で、此事件の結末に満足や諦めを得ようとは思っていなかった。 ――一生涯! 一生涯、俺は呪ってやる、たといどんなに此先の俺の生涯が惨めでも、又短かくても、俺は呪ってやる。やっつ・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・さるを第三句に主眼を置きしゆえ結末弱くなりて振わず。「怒り落つる滝」などと結ぶが善し。島崎土夫主の軍人の中にあるに妹が手にかはる甲の袖まくら寝られぬ耳に聞くや夜嵐 上三句重く下二句軽く、瓢を倒にしたるの感あり。こ・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・一八七〇年の普仏戦争と、翌年三月十八日に起ったパリ・コンミューンとその悲劇的な、然し名誉ある結末などは、歴史上有名なバクーニンとマルクスとの対立分離をもたらした。激しい国際情勢の変化と、ますます客観的に現実を洞察するマルクスの理論とは、社会・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ 或る場合には、総てを社会的欠陥に帰し、或る場合には、広い懐を持つ運命と云う言葉の中に投げこんで主観的感情的結末に落付こうとする。人として、偉大な人生の些やかな然し大切な一節を成す自分の運命として、四囲の関係の裡に在る我を通観する事に馴・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・ロメシウスが、ジュピターによって地球の骨といわれたコーカサスの山にしばりつけられ、日毎新しくなる肝臓を日毎にコーカサスの禿鷹についばまれて永遠に苦しみつづけなければならない罰を蒙った、というこの物語の結末を、後代からは叡智の選手のように見ら・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・ 今日の眼で観れば、この作品の結末では、作者にまだインテリゲンツィアにとって真の発展というのが、何を意味するかということが、歴史性の上からちっとも分っていなかったことが明瞭に読み取れます。「伸子」は、一つの境遇の垣は一生懸命に破ったが、・・・ 宮本百合子 「「伸子」について」
・・・の記念的経験をちゃんと短いながら一つの作品「マカールの生涯の一事件」になし得たのは、二十五年の後、『プラウダ』に参加するようになった一九一二年のことであるという事実である。「マカールの生涯の一事件」の結末に於て、ゴーリキイは「病んだ心臓の奥・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・と言い放って、境の生垣の蔭へ南瓜に似た首を引込めた。結末は意味の振っている割に、声に力がなかった。「旦那さん。御膳が出来ましたが。」 婆あさんに呼ばれて、石田は朝飯を食いに座敷へ戻った。給仕をしながら婆あさんが、南裏の上さんは評判の・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・したこと、夫や妻やその他の人々の利己主義を平等に憎んでいること、その利己主義を打ち砕くべき場合方法などを繰り返し繰り返し暗示していること、結局それがだんだん実現されそうになって行くという幾分光明のある結末が先生の作としてきわめて珍しいことな・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫