・・・が、菊池が兄貴らしい心もちを起させるのは、主として彼の人間の出来上っている結果だろうと思う。ではその人間とはどんなものだと云うと、一口に説明する事は困難だが、苦労人と云う語の持っている一切の俗気を洗ってしまえば、正に菊池は立派な苦労人である・・・ 芥川竜之介 「兄貴のような心持」
・・・彼はそこに立ったまま、こんな結果になった前後の事情を想像しながら遠ざかってゆく靴音を聞き送っていた。 その晩父は、東京を発った時以来何処に忘れて来たかと思うような笑い顔を取りもどして晩酌を傾けた。そこに行くとあまり融通のきかない監督では・・・ 有島武郎 「親子」
・・・じつにかの日本のすべての女子が、明治新社会の形成をまったく男子の手に委ねた結果として、過去四十年の間一に男子の奴隷として規定、訓練され、しかもそれに満足――すくなくともそれに抗弁する理由を知らずにいるごとく、我々青年もまた同じ理由によって、・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・冷汗を流して、談判の結果が三分、科学的に数理で顕せば、七十と五銭ですよ。 お雪さんの身になったらどうでしょう。じか肌と、自殺を質に入れたんですから。自殺を質に入れたのでは、死ぬよりもつらいでしょう。―― ――当時、そういった様子でし・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・三人の男共を指揮して、数時間豪雨の音も忘れるまで活動した結果、牛舎には床上更に五寸の仮床を造り得た。かくて二十頭の牛は水上五寸の架床上に争うて安臥するのであった。燃材の始末、飼料品の片づけ、為すべき仕事は無際限にあった。 人間に対する用・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・ 貴様の口のはたも、どこの馬の骨か分りもしない奴の毒を受けた結果だぞ」 言っておかなかったが、かの女の口のはたの爛れが直ったり、出来たりするのは、僕の初めから気にしていたところであった。それに、時々、その活き活きした目がかすむのを井筒屋・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ が、清廉を看板にし売物にする結果が貧乏をミエにする奇妙な虚飾があった。無論、沼南は金持ではなかった。が、その社会的位置に相応する堂々たる生活をしていたので、濁富でないまでも清貧を任ずるには余りブールジョア過ぎていた。それにもかかわらず・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・そればかりでなくその結果はかならずしも害のないものではない。昨日もお話ししたとおり金は用い方によってたいへん利益がありますけれども、用い方が悪いとまたたいへん害を来すものである。事業におけるも同じことであります。クロムウェルの事業とか、リビ・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・決闘の結果は予期とは相違していましたが、兎に角わたくしは自分の恋愛を相手に渡すのに、身を屈めて、余儀なくせられて渡すのではなく、名誉を以て渡そうとしたのだというだけの誇を持っています。」「どうぞ聖者の毫光を御尊敬なさると同じお心持で、勝・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・中には小さな利己的な潔癖から、自分の家へ友達を呼んで来るのを厭うような母親もあるが、そうしたことが、子供をして将来、個人主義者たらしめたり、会社へ出ても、他と共に協力の出来ぬ、憐れむべき人間にする結果となります。 これから教育は、家庭に・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
出典:青空文庫