・・・は文字には書けず、私など苦心惨憺した結果「そうだ」と書いて、「そうだす」と同じ意味だが、「す」を省略した言葉だというまわりくどい説明を含んだ書き方でごまかしているのである。が、これとても十分な書き方ではなく、一事が万事、大阪弁ほど文章に書き・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・がその結果は、やっぱし壁や巌の中へ封じ込められようということになったのだ。…… Kへは気の毒である。けれども彼には何処と云って訪ねる処が無い。でやっぱし、十銭持つと、渋谷へ通った。 処が最近になって、彼はKの処からも、封じられること・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・ 弟達が来ますと、二人に両方の手を握らせて、暫くは如何にも安心したかの様子でしたが、末弟は試験の結果が気になって落ちつかず、次弟は商用が忙しくて何れも程なく帰ってしまいました。 二十日の暮れて間もない時分、カツカツとあわただしい下駄・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・それの非常な不結果であったことはあなたも少しは知っていられるでしょう。 ――父の苦り切った声がその不面目な事件の結果を宣告しました。私は急にあたりが息苦しくなりました。自分でもわからない声を立てて寝床からとび出しました。後からは兄がつい・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・これが唯だ源因結果の理法に過ないと数学の式に対するような冷かな心持で居られるものでしょうか。生の母は父の仇です、最愛の妻は兄妹です。これが冷かなる事実です。そして僕の運命です。 若し此運命から僕を救い得る人があるなら、僕は謹しんで教を奉・・・ 国木田独歩 「運命論者」
・・・何故ならこれに答えるためには、その場合の事情の十全な認識、行為のあらゆる結果の十全なる予測が必要であるが、かかる知見は神ならぬ人間には存しないからだ。かかる意味で、道徳上絶対に妥当な意志決定はありあたわぬ。しかしおよそ道徳とは何か、道徳的な・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 往復一里もあるその部落へその女は負い籠を背負って行ったそうだが、結果がどうなったかは帰って来ても喋らない。しかし、再三籠を背負って行くのを見た者があるそうだ。 が、最近また米の配給方法が変って外米を鶏に呉れてやった船長の細君も、籠・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・ので、田舎の小学を卒ると、やがて自活生活に入って、小学の教師の手伝をしたり、村役場の小役人みたようなことをしたり、いろいろ困苦勤勉の雛型その物の如き月日を送りながらに、自分の勉強をすること幾年であった結果、学問も段進んで来るし人にも段認めら・・・ 幸田露伴 「観画談」
・・・死者は、なんの感ずるところなく、知るところなく、よろこびもなく、かなしみもなく、安眠・休歇にはいってしまうのに、これを悼惜し、慟哭する妻子・眷属その他の生存者の悲哀が、幾万年かくりかえされた結果として、なんびとも、死は漠然とかなしむべし、お・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・おげんは意外な結果に呆れて、皆なの居るところへ急いで行って見た。そこには母親に取縋って泣顔を埋めているおさだを見た。「ナニ、何でもないぞや。俺の手が少し狂ったかも知れんが、おさださんに火傷をさせるつもりでしたことでは無いで」 とおげ・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
出典:青空文庫