・・・貉を生取って来て殺したそうだが、丁度その日から、寺の諸所へ、火が燃え上るので、住職も非常に困って檀家を狩集めて見張となると、見ている前で、障子がめらめらと、燃える、ひゃあ、と飛ついて消す間に、梁へ炎が絡む、ソレ、と云う内羽目板から火を吐出す・・・ 泉鏡花 「一寸怪」
・・・言い澱んで、「いいえ、酔って絡むわけじゃないのよ。ごめんなさいね。でも、――男の人って、どうして皆そんなに、女のこととなると変に責任、持ちたがるのかしら。どうして皆、わかり切ったお説教したがるのかしら。あなたは、さちよが、いままで、どんなに・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・ 内縁関係、未亡人の生きかたに絡む様々の苦しい絆は、経済上の性質をもっているにしろ、その根に、精神の軛として、封建的な家族制度がのしかかっている。今度の第二次世界戦争で、日本の軍事的権力は百四万以上の生命を犠牲とした。家庭は、既に強権に・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・而も、一旦生まれた以上、我々は出生に絡むあらゆる社会的偶然と必然とを終生何かの形で荷なって、生きて行かざるを得ない。子供から大人になりかかって、漸々自分というものを考える力がついた時、何故自分は生まれたのであろう。そして何の為に生れたのであ・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・ バルザックが、彼の作品でとりあげたのは正にそのロマンチストたちにとって俗悪・低劣とされたところの金銭及び金銭に絡む大小俗人の、こまごまとして塵のひどい日々夜々、そのベッドにまで這い上って来る悲喜劇であった。ロマンチスト達が自らを高く持・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫