・・・両岸の家々はもう、たそがれの鼠色に統一されて、その所々には障子にうつるともしびの光さえ黄色く靄の中に浮んでいる。上げ潮につれて灰色の帆を半ば張った伝馬船が一艘、二艘とまれに川を上って来るが、どの船もひっそりと静まって、舵を執る人の有無さえも・・・ 芥川竜之介 「大川の水」
思想と実生活とが融合した、そこから生ずる現象――その現象はいつでも人間生活の統一を最も純粋な形に持ち来たすものであるが――として最近に日本において、最も注意せらるべきものは、社会問題の、問題としてまた解決としての運動が、い・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・A 日本の国語が統一される時さ。B もう大分統一されかかっているぜ。小説はみんな時代語になった。小学校の教科書と詩も半分はなって来た。新聞にだって三分の一は時代語で書いてある。先を越してローマ字を使う人さえある。A それだけ混乱・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
・・・その不便からだけでも、我々は今我々の思想そのものを統一するとともに、またその名にも整理を加える必要があるのである。 見よ、花袋氏、藤村氏、天渓氏、抱月氏、泡鳴氏、白鳥氏、今は忘られているが風葉氏、青果氏、その他――すべてこれらの人は皆ひ・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・中にも、食事の趣味程普遍的なものはない、大人も小児も賢者も智者も苟も病気ならざる限り如何なる人と雖も、其興味を頒つことが出来る、此最も普遍的な食事を経とし、それに附加せる各趣味を緯とし、依て以て家庭を統一し社会に和合の道を計るは、真に神の命・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・に黄ばんだ稲の広やかな田畝や、少し色づいた遠山の秋の色、麓の村里には朝煙薄青く、遠くまでたなびき渡して、空は瑠璃色深く澄みつつ、すべてのものが皆いきいきとして、各その本能を発揮しながら、またよく自然の統一に参合している。省作はわれ自らもまた・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・千七百八十九年の抑々の初めから革命終って拿破烈翁に統一せられた果が、竟にウワータールーの敗北に到るまでを数えても二十六年である。米国の独立戦争もレキシントンから巴黎条約までが七年間である。如何なる時代の歴史の頁を繙いて見ても二十五年間には非・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・これ等の統一的な芸術にあっては、はじめより、大衆に共通する趣味、興味、感情、思想等を標準とし、普遍性を指標とするを特色とする。勿論その中には、郷土的色彩のあるものもあるけれど、要するにそれ等の認識、発見に目的があるのでなくして、一般の娯楽に・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・ 読むことから、そして見ることから、われ/\の随時に獲たあるものに対して、統一を与え組織を与えるものは、実に思索の賜物である。三 先ず試みよ 文章を作るまでの用意については、大体を尽したと思う。そこで、今諸君に望むところ・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・彼等のうちにも多少の党派別があり、それ/″\の主張があるのではあろうが、私なんぞから見ると、彼等は悉く東京のインテリゲンチャ臭味に統一されている。彼等の関心は、東京の文化と、東京を通じて輸入される外来思想とのみに存して、自分たちの故郷の天地・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
出典:青空文庫