・・・適度に感ずる時は爽快であり、且又健康を保つ上には何びとにも絶対に必要である。 ユウトピア 完全なるユウトピアの生れない所以は大体下の通りである。――人間性そのものを変えないとすれば、完全なるユウトピアの生まれる筈はない。・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・が、投身することは勿論当直のある限りは絶対に出来ないのに違いなかった。のみならず自殺の行われ易い石炭庫の中にもいないことは半日とたたないうちに明かになった。しかし彼の行方不明になったことは確かに彼の死んだことだった。彼は母や弟にそれぞれ遺書・・・ 芥川竜之介 「三つの窓」
・・・私は新興階級者になることが絶対にできないから、ならしてもらおうとも思わない。第四階級のために弁解し、立論し、運動する、そんなばかげきった虚偽もできない。今後私の生活がいかように変わろうとも、私は結局在来の支配階級者の所産であるに相違ないこと・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・五 人は相対界に彷徨する動物である。絶対の境界は失われた楽園である。 人が一事を思うその瞬時にアンチセシスが起こる。 それでどうして二つの道を一条に歩んで行くことができようぞ。 ある者は中庸ということを言った。多・・・ 有島武郎 「二つの道」
・・・蓋し自分が絶対の信用を捧ぐる先生の一喝は、この場合なお観音力の現前せるに外ならぬのである。これによって僕は宗教の感化力がその教義のいかんよりも、布教者の人格いかんに関することの多いという実際を感じ得た。 僕が迷信の深淵に陥っていた時代は・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・おとよさんは絶対に自分の夫と並ぶをきらって、省作と並ぶ。なんといってもこの場では省作が花役者だ。何事にも穏やかな省作も、こう並んで刈り始めて見ると負けるは残念な気になって、一生懸命に顔を火のようにして刈っている。満蔵はもうひとりで唄を歌って・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・ 何ほど念を入れて聞いても、絶対の静かさは、とうてい永久の眠りである。再び動くということなき永久の静かさは、実に冷酷のきわみである。 永久なる眠りも冷酷なる静かさも、なおこのままわが目にとどめ置くことができるならば、千重の嘆きに幾分・・・ 伊藤左千夫 「奈々子」
・・・ 僕はその大エネルギと絶対忍耐性とを身にしみ込むほど羨ましく思ったが、死に至るまで古典的な態度をもって安心していたのを物足りないように思った。デカダンはむしろ不安を不安のままに出発するのだ。 こんな理屈ッぽい考えを浮べながら筆を走ら・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・然るにこの病気はいずれも食戒が厳しく、間食は絶対に禁じられたが、今ならカルケットやウェーファーに比すべき軽焼だけが無害として許された。殊に軽焼という名が病を軽く済ますという縁喜から喜ばれて、何時からとなく疱瘡痲疹の病人の間食や見舞物は軽焼に・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
子供は、自分のお母さんを絶対のものとして、信じています。そのお母さんに対して、註文を持つというようなことがあれば、それは、余程大きくなってからのことでありましょう。たとえば、お母さんに頼んだことを、きちんとしてもらいたいとか、また、他・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
出典:青空文庫