・・・たゞ人間の理想も幸福もみな刹那的なもので、軈て最後は絶滅すると云う、永久に変ることのない、亡びるものゝ悩みがある。昔から虚無の思想に到達したものは歓喜を見ない。ニヒリストの姿は寂しい。 また別に「いくら働いても人間の生活はよくならぬ、人・・・ 小川未明 「波の如く去来す」
・・・彼等は、あの老人を絶滅して以来、もう、偽せ札を造り出す者がなくなってしまったと思っていた。殊に、絶滅の仕方が惨酷であったゞけ、その効果が多いような感じがした。 彼等は、自分の姓名が書かれてある下へ印を捺して、五円と、いくらか半ぱの金を受・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・ 資本主義制度が存続している限り、××が絶滅される時期はやって来ない。ひとたび××××戦争によって、世界が分割され、平和な時期がやって来ても、又、次の××××戦争がやって来る。欧洲大戦が終結して平和がやってきた。しかし、それから十年も経・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・ しかし蠅を取りつくすことはほとんど不可能に近いばかりでなく、これを絶滅すると同時に、蛆もこの世界から姿を消す、するとそこらの物陰にいろいろの蛋白質が腐敗して、いろいろのばいきんを繁殖させ、そのばいきんはめぐりめぐって、やはりどこかで人・・・ 寺田寅彦 「蛆の効用」
・・・犀などがだんだんに人間に狩り尽くされて絶滅しかけているという事実はたしかに彼らが現世界に生存するに不利益な条件を備えているためであろう。 過去のある時代には犀のようなものが時を得顔に横行したこともあったのである。その時代の環境のいかなる・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・いくら折られつぶされても決して絶滅する恐れはないにしてもそのために要求される犠牲の価は時には安くないものになる。 そのような侵略的な宣伝が現在どこにあるかと聞かれるとすぐ適例をあげる事は困難かもしれない。しかし現在の宣伝という言葉には、・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・さるなどというもののあるのはいったい不都合だと言って憤慨してみたところで世界じゅうのさるを絶滅することはむつかしい。かにの弱さいくじなさをののしってみたところでかにをさるよりも強くすることは人力の及ぶ限りでない。蜂やいが栗や臼がかにの味方に・・・ 寺田寅彦 「さるかに合戦と桃太郎」
・・・ しかしはえを取り尽くすことはほとんど不可能に近いばかりでなく、これを絶滅すると同時にうじもこの世界から姿を消す、するとそこらの物陰にいろいろの蛋白質が腐敗していろいろの黴菌を繁殖させその黴菌は回り回ってやはりどこかで人間に仇をするかも・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・地質時代に朝鮮と陸続きになっていたころに入り込んでいた象や犀などはたぶん気候の変化のために絶滅して今ではただ若干の化石を残している。 朝鮮にいる虎が気候的にはそんなに違わない日本にいないのはどういうわけであるか、おそらく日本の地が大陸と・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ 何とかしてこの害虫を絶滅する方法はないものだろうかと思うだけで、専門家に聞いてみるでもなく、書物を調べるでもなく、ついそのままにしておくのである。いつか三越の六階で薔薇を見ていたら、それにもちゃんとこの虫がついたままに正札をつけてある・・・ 寺田寅彦 「蜂が団子をこしらえる話」
出典:青空文庫