・・・かつて或る暴風雨の日に俄に鰻が喰いたくなって、その頃名代の金杉の松金へ風雨を犯して綱曳き跡押付きの俥で駈付けた。ところが生憎不漁で休みの札が掛っていたので、「折角暴風雨の中を遥々車を飛ばして来たのに残念だ」と、悄気返って頻に愚痴ったので、帳・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ 藤二は、柱と綱引きをするように身を反らして緒を引っぱった。暫らくして、小さい声で、「皆な角力を見に行くのに!」と云った。「うちらのような貧乏タレにゃ、そんなことはしとれゃせんのじゃ!」「えゝい。」がっかりしたような声でいっ・・・ 黒島伝治 「二銭銅貨」
・・・ 午後乗り組みの帰休兵が運動競技をやった。綱引きやら闘鶏――これは二人が帆桁の上へ向かい合いにまたがって、枕でなぐり合って落としっくらをするのである。それから Geld Suchen im Mehl というのは、洗面鉢へ盛ったメリケン粉・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
出典:青空文庫