・・・ 三 『八犬伝』総括評 だが、有体に平たくいうと、初めから二十八年と予定して稿を起したのではない。読者の限りない人気に引き摺られて次第に延長したので、アレほど厖大な案を立てたのでないのはその巻数の分け方を見ても明・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
一 私は今ここに自分の最近両三年にわたった芸術論を総括し、思想に一段落をつけようとするにあたって、これに人生観論を裏づけする必要を感じた。 けれども人生観論とは畢竟何であろう。人生の中枢意義は言うまでもなく実行である。人生観・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・とかいう主題によって全体が総括されている。しかしそれほど簡単でないものもある。「アンダルーシアの犬」と称する非現実映画になるともはやそういう明白な主題はない。そのモンタージュは純然たる夢の編成法であり、しかもかなりによく夢の特性をつかんでい・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・これらの場合を総括するに、いずれもかつてポアンカレーの述べしごとく「原因の微分的変化が結果の有限変化を生ずる場合」に当るを見る。自然現象予報の可能程度を論ずる際に忘るべからざる標準の一つはここに係る。後に更に実地問題につきて述ぶる事とせん。・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
はしがき これからしばらく続けて筆を執ろうとする随筆断片の一集団に前もって総括的な題をつけようとすると存外むつかしい。書いてゆくうちに何を書くことになるかもわからないのに、もし初めに下手な題をつけておく・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 我邦では岡田博士に従って凍雨の名称の下に総括されているものの中にも種々の差別があって、その中には透明な小さい氷球や、ガラスの截片のような不規則な多角形をしたものや、円錐形や円柱形をしたものもある。氷球は全部透明なものもあるが内部に不透・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・しかし、ここでは、それらの地方的特性を総括しまた要約した「一般的日本人」の「要約した日本」の自然観を考察せよというのが私に与えられた問題であろうと思われる。そうだとすると問題は決してそう容易でないことがわかるのである。 われわれは通例便・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ 物理の理の字は正にかくのごとき総括を意味するとも云える。直接五感に触れる万象をことごとく偶然と考えないとすれば、経験が蓄積するにつれて概括抽象が行われ箇々の方則を生じ、これらの方則が蓄積すれば更に一段上層の概括が起る。そうなればもはや・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
科学の方則は物質界における複雑な事象の中に認められる普遍的な連絡を簡単な言葉で総括したものである。事実の言い表わしであって権利も義務も訓戒も含まれていない。しかし今ここで方則の定義や法律と方則との区別などを喋々しようとは思・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・以上を総括して今後の日本人にはどう云う資格が最も望ましいかと判じてみると、実現のできる程度の理想を懐いて、ここに未来の隣人同胞との調和を求め、また従来の弱点を寛容する同情心を持して現在の個人に対する接触面の融合剤とするような心掛――これが大・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
出典:青空文庫