大気中の水蒸気が凍結して液体または固体となって地上に降るものを総称して降水と言う。その中でも水蒸気が地上の物体に接触して生ずる露と霜と木花と、氷点下に過冷却された霧の滴が地物に触れて生ずる樹氷または「花ボロ」を除けば、あと・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・博文館が帝国文庫という総称の下に江戸時代の稗史小説の復刻をなし始めたのはその頃からであろう。わたくしは病床で『真書太閤記』を通読し、つづいて『水滸伝』、『西遊記』、『演義三国志』のような浩澣な冊子をよんだことを記憶している。病中でも少年の時・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・この徳義的情操を標準にしたものを総称して善の理想と呼ぶ事ができます。この事はもっと委細に御話したいが時間がないから略して次に移ります。精神作用の第三は意志であります。この意志が文芸的にあらわれ得るためには、やはり前述の条件に従って、感覚・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・慈といい、孝といい、悌といい、友というが如き、即ちこれにして、これを総称して人生居家の徳義と名づくといえども、その根本は夫婦の徳に由らざるはなし。如何となれば、夫婦既に配偶の大倫を紊りて先ず不徳の家を成すときは、この家に他の徳義の発生すべき・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・さらばこれらのものを総称して何というかといえば、木の実というのである。木の実といえば栗、椎の実も普通のくだものも共に包含せられておる理窟であるが、俳句では普通のくだものは皆別々に題になって居るから、木の実といえば椎の実の如き類の者をいうよう・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・つまり友達としては向上心もあり、感受性も活溌で、幾らかはスポーティな、いってみれば手ごたえの鮮やかな女性を好む若い男たちが、いざ結婚のあいてを選ぶとなると案外そのようなタイプとは逆の、いわゆる家庭的と総称されて来ている娘たちの方を妻として安・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・日本人と云う総称が、其の裡に無数の箇性的差異を包含して居る通り、人類と云う響は又其の内に、箇々の民族的差異をも暗示して居ります。 其故私は、国民的名称の差異に意識無意識に左右された批評は好みません。私は米国人とその名を以て、その約束的符・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・衆は現代の諸矛盾を八方からその身に受けて照りかえしつつ日々夜々を生きているのであって、自身の置かれているこの社会での場所を、昨今一部の作家が殆ど一種のエキゾチシズムをも加えて云うかと思われる民衆的なる総称の下に、強ち鼓腹撃壤しているのでもな・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
出典:青空文庫