・・・ 沼南にはその後段々近接し、沼南門下のものからも度々噂を聞いて、Yに対する沼南の情誼に感奮した最初の推服を次第に減じたが、沼南の百の欠点を知っても自分の顔へ泥を塗った門生の罪過を憎む代りに憐んで生涯面倒を見てやった沼南の美徳に対する感嘆・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・それで、こういう罪過の行われるところでは大概教師の方が主な咎を蒙らなければならない。学級の出来栄えは教師の能力の尺度になる。一体学級の出来栄えには自ずから一定の平均値があってその上下に若干の出入りがある。その平均が得られれば、それでかなり結・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・しかし子供のような心で門下に集まる若い者には、あらゆる弱点や罪過に対して常に慈父の寛容をもって臨まれた。そのかわり社交的技巧の底にかくれた敵意や打算に対してかなりに敏感であったことは先生の作品を見てもわかるのである。「虞美人草」を書いて・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・未来に引き延ばしがたきものを引き延ばして無理にあるいは盲目的に利用せんとしたる罪過と見る。 過去はこれらのイズムに因って支配せられたるが故に、これからもまたこのイズムに支配せられざるべからずと臆断して、一短期の過程より得たる輪廓を胸に蔵・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・ 日常生活の幸、不幸にかかわる民法において一人民として婦人が夥しく無力である事から、その社会的存在を守るに力ない無権利から発したさまざまの罪過に対して、罰は一人格として受けなければならないのは、余りにむごたらしいことではないだろうか。・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・ 日本精神という四字が過去十数年間、その独断と軍国主義的な狂言で、日本の精神の自然にのびてゆく道をさえぎっていた罪過ははかりしれないほどふかい。作家横光利一の文学の破滅と人間悲劇の軸は、彼の理性、感覚が戦時的な「日本的なもの」にひきずら・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・そういう心情の方へ押しつけて行きました。そういう罪過はいろいろな形で彼に報いに来ました。がしかし、彼はその苦悩の真の原因を悟る事ができないのでした。私はその人の人格に同感すればするほど不愉快を感じます。そうしてその苦悩に同情するよりもその無・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫