・・・とかように初に置くこと感情の順序に戻りて悪し。『万葉』にてはかくいわず。全くこの語を廃するか、しからざれば「煙立ついぶせ」などように終りに置くべし。下二句の言い様も俗なり。赤賤家這入せばめて物ううる畑のめぐりのほほづきの・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・それにつけても仕事のない時に、いそがしい時の仕度をして置くことが、最必要だ。つまりその仕事の材料を、こんな時に集めて置かないといかんな。ついてはまず第一が木だがな。今日はみんな出て行って立派な木を十本だけ、十本じゃすくない、ええと、百本、百・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・を出して本棚や机をふいて、食堂から花を持って来たり、鼠に食われる恐ろしさに仕舞って置く人形や「とんだりはねたり」を並べたりする。 妙にそわそわして胸がどきどきする。 母に笑われる。でも仕方がない。 花を折りに庭へ出て書斎の前の、・・・ 宮本百合子 「秋風」
木村は官吏である。 ある日いつもの通りに、午前六時に目を醒ました。夏の初めである。もう外は明るくなっているが、女中が遠慮してこの間だけは雨戸を開けずに置く。蚊の外に小さく燃えているランプの光で、独寝の閨が寂しく見えている。 器・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・が、事実は秋三や母のお霜がしたように、病人の乞食を食客に置く間の様々な不愉快さと、経費とを一瞬の間に計算した。 お霜は麦粉に茶を混ぜて安次に出した。「飯はちょっともないのやわ、こんなもんでも好けりゃ食べやいせ。」「そうかな、大き・・・ 横光利一 「南北」
・・・ 夕食の時、己がおばさんに、あのエルリングのような男を、冬の七ヶ月間、こんな寂しい家に置くのは、残酷ではないかと云って見た。 おばさんは意味ありげな微笑をした。そして云うには、ことしの五月一日に、エルリングは町に手紙をよこして、もう・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・ 恐らく神といえども、もっともっと比べものにならないほどの苦しみを私の上に置く事もあるだろう。しかも恐らく私を愛するゆえに。不遜なる者よ。きわめて小さい不運をさえも、首を垂れて受けることのできない心傲れる者よ。そんな浅い心にどうして運命の深・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫