・・・そこで歴史までも『かも知れぬ』を『である』に置き換えてしまったのです。」 愈どうにも口が出せなくなった本間さんは、そこで苦しまぎれに、子供らしい最後の反駁を試みた。「しかし、そんなによく似ている人間がいるでしょうか。」 すると老・・・ 芥川竜之介 「西郷隆盛」
・・・彼がじいっと耳を澄ますと、納屋で蓆や空俵を置き換えている気配がした。まもなく、お里が喉頭に溜った痰を切るために「ウン」と云って、それから、小便をしているのが聞えて来た。「隠したな。」と清吉は心で呟いた。 妻は、やはり反物をかえさずに・・・ 黒島伝治 「窃む女」
・・・何故、自分の本質のそんな軽薄を、他の質と置き換えて見せつけなければいけないのか。軽薄を非難しているのではない。私だって、この世の最も軽薄な男ではないかしらと考えている。何故、それを、他の質とまぎらわせなければいけないのか、私にはどうしても、・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・実際プドーフキンでもエイゼンシュテインでも、ボラージュでもそれらの人々のモンタージュに関する論述を読むに当たって、その記述の表面に現われた具象的なものを適当にムタティス・ムタンディスに置き換えさえすればそれはほとんど完全に他の芸術の分野に適・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ さて、これらの原始的な世界像構成要素が映画ではどういうふうに置き換えられて代表されているかを考えてみる。 まず「質量」はどうなっているか。映像にはもちろん普通の意味での質量は欠けている。影と幽霊には目方はないのである。しかし映画の・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・の音を置き換えてある。ばかげているようであるが、この音で夢の世界から現実の世界へ観客を呼び返す役目をつとめさせているのである。 公爵のシャトーの中のかび臭い陰気な雰囲気を描くためにいろいろな道具が使われているうちに、姫君の伯母三人のオー・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
・・・人間の言葉の音波列を分析して、その組成分の中からその基音ならびに低いほうの倍音を除去して、その代わりに、もとよりはずっと振動数の大きい任意の音をいろいろと置き換えてみる。そういう人工的な音を響かせてそうしてそれを聞いてみて、それがもし本来の・・・ 寺田寅彦 「疑問と空想」
・・・ 実際もし映画殊に発声映画の技術が発達を重ねて行ってその器械がもう少し安くなって一般の使用に便利なようになれば、多くの学校の無味乾燥な教授の大部分は映画で置換えられるであろう。全級一度に教授することによって教員の手が明く。先生方はそうし・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・サンスクリトの krudhyati のkをhで置き換えるとともかくも hrdt という音列を得られる。これを haradati の子音と比べると同一である。偶然とするとかなり公算の少ない場合の一致である。ロシアの serditi もやはりい・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・甲を一、乙を二、丙を三と順々に置き換えてしまえば、たとえば二十三と言う代わりに乙丙と言っても文字がめんどうなだけで理屈は同じである。これに反して干支法は言わば複式の数え方で、十進法と十二進法との特殊な結合である。甲子を一とし乙丑を二とすれば・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
出典:青空文庫