・・・フイリッポフが夫のところへ行ったら良人はかえるものと思って居た 女いや ラシャ売り、それがレッシャウリときこえた。Yに。 日本の女から片仮名の手紙が来る。それをフイリッポフによんで貰いに持って来る。女と見れば、しっかりいつま・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・それらは、現在でも開成山の家の戸棚に、赤ラシャの布につつまれてしまってあります。 一九一八年に数ヵ月ニューヨークへ出かけた折の分も散逸してしまって居り、一九二九年五月、一家を引連れてヨーロッパ旅行した節のも、これぞというのがありません。・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ 龍ちゃんと云われた母の甥は横浜のラシャ屋へ婿に行った。行ってみたらば姑に当る四十こした後家が水色のゆもじを出して立て膝で酒をのみ、毎晩ばくちを打つ。その上、はたできいている子供たちには諒解されないもっといやなことがあって、龍ちゃんがイ・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・薄禿げで、口のまわりに大きい皺のある小柄な主人が縞の着物に黒ラシャ前垂をかけ、台に坐り筆で何か書いている。主人の背後には、差入れをたのまれた書籍類が数冊ずつ細い紐でしばっておいてある。 この差入屋の店へ私はあとから入って来たので、今主人・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・ 机が大変よごれたので水色のラシャ紙をきって用うところだけにしき、硯ばこを妹にふみつぶされたから退紅色のところに紫や黄で七草の出て居る千代がみをほそながくきって図学(紙をはりつけて下に敷いた。 水色のところにうき出したように見えてき・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・腰を塵を取る様にパタパタと叩き三つ四つ頭をさげて土間の女中にまで何か云って庭の入口の竹垣に引っかけて置いた、裾の切れた、ボタンもない黒ラシャの茶色になった外套のお化けの様なものをバアッとはおって素頭でテクテクと歩いて行く。 中高な門内の・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・口が利けないまま、石川の着ている羅紗のもじりの袖を掴んでぎゅうぎゅう来た方に引張った。「来て下さい、直ぐ。よ! よ!」 ふと石川は火でも粗忽したのかと思い、「火か?」と訊いた。お君は、ふっくりした束髪の前髪がちぎれそうに首を・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・窓の明りが左手から斜に差し込んで、緑の羅紗の張ってある上を半分明るくしている卓である。 ―――――――――――――――― この秋は暖い暖いと云っているうちに、稀に降る雨がいつか時雨めいて来て、もう二三日前から、秀麿の・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ * * * 電灯の明るく照っている、ホテルの広間に這入ったとき、己は粗い格子の縞羅紗のジャケツとずぼんとを着た男の、長い脚を交叉させて、安楽椅子に仰向けに寝たように腰を掛けて・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・車輪にはゴムが附いていて、窓枠には羅紗が張ってあります。ですから二頭曳の馬車の中はいい心持にしんみりしていて、細かい調子が分かります。平凡な詞に、発音で特別な意味を持たせることも出来ます。あの時あなたわたくしに「どうです」とそうおっしゃいま・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
出典:青空文庫