・・・ただ一つの逸話として伝えられているのは、彼が五歳の時に、父から一つの羅針盤を見せられた事がある、その時に、何ら直接に接触するもののない磁針が、見えざる力の作用で動くのを見て非常に強い印象を受けたという事である。その時の印象が彼の後年の仕事に・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・鳥は夜盲であり羅針盤をもっていないとすると、暗い谷間を飛行するのは非常に危険である。それにかかわらずいつも充分な自信をもって自由に飛行して目的地に達するとすれば、そのためには何か物理学的な測量方法を持ち合わせていると考えないわけにはゆかない・・・ 寺田寅彦 「疑問と空想」
・・・一体近来の汽船には鉄を多量に使用するため、ややもすれば船体の鉄材が船の生命――羅針盤の磁石に感じて多少の誤差を起させる。さればと云って鉄の代りに他の金属を用いては高くなる。これには前述の二十三プロセントニッケル鋼を羅針盤の近傍必要の箇所に使・・・ 寺田寅彦 「話の種」
・・・そこではどっさりの大船小舟が船底をくさらせたり推進機に藻を生やしたりしているのはわかっていても、自分の小さい出来たもとの櫓や羅針盤にたよりきれないような思いがする。 ここに二人のひとがあって、一方は、所謂間違いのないという範囲で信用のあ・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
出典:青空文庫