・・・――どうだ。美事な、自然らしい悪意には、我ながら感服の外はない。ミーダ 愉しめ! 愉しめ! 押しこめに会っていた本能の野獣ども。今日は火の中のワルプルギスだ。如何に醜悪な罪証も寛大な焔が押し包んで焼き消して呉れる。心に遺る罪証の陰気な溜・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・それを、「梶は日本の変化の凄まじさを今更美事だとまたここでも感服する」というのは、いかがしたことであろうか。「厨房日記」をよむと、この作者が外国でも日本でも、質のよくない情報者というか、消息通にかこまれていることがはっきり分る。それらの・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・既にロシアの党は美事に、このことを示し得た。 今や、第二の革命と戦争の時代において、日本プロレタリアートの前におかれている任務の重大さは、まさに、かつてのロシア・プロレタリアートの任務にも匹敵するほどのものだ。我々の前には、世界帝国主義・・・ 宮本百合子 「労働者農民の国家とブルジョア地主の国家」
・・・どんなに美事に着飾ろうとも、女は三界に家なきものとされた。娘の時は父の家。嫁しては夫の家。老いては子の家。それらの家に属する女として存在するばかりで、彼女自身の家というものは認められなかった。しかも、その彼女たちのものならぬ「家」の経営のた・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ただ肉が肥えて腮にやわらかい段を立たせ、眉が美事で自然に顔を引き立たせたのでやや見どころがあるように見える。そのすこし前までは白菊を摺箔にした上衣を着ていたが、今はそれを脱いでただ蒲の薄綿が透いて見える葛の衣物ばかりでいる。 これと対い・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・彼には横たわっている妻の顔が、その傍の薬台や盆のように、一個の美事な静物に見え始めた。 彼は二人の間の空間をかつての生き生きとした愛情のように美しくするために、花壇の中からマーガレットや雛罌粟をとって来た。その白いマーガレットは虚無の中・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫