・・・理由のない不安と憂鬱の雰囲気のようなものが菖蒲や牡丹の花弁から醸され、鯉幟の翻る青葉の空に流れたなびくような気がしたものである。その代り秋風が立ち始めて黍の葉がかさかさ音を立てるころになると世の中が急に頼もしく明るくなる。従って一概に秋を悲・・・ 寺田寅彦 「五月の唯物観」
・・・「スモーリヌイに翻る赤旗」そのほかは、かえって来てから一九三一年にかかれている。「ピムキン、でかした!」は、その年のはじめに日本プロレタリア作家同盟へ参加してから、農民文学のための雑誌『農民の旗』へかいたものだと思う。小説の形をとっているけ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・は、翻る赤旗とともに、すべてこういうプロレタリア、農民への重石をはねのけ、猛然と文盲撲滅をはじめた。工場の中、兵営の中、農村、町、ソヴェトの中、教会の中をもいとわず、共産青年同盟員やピオニェールが、アルファベットのカードをこしらえて、七十の・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ 間断なき週間制によって、五日週間を働くようになった一般勤労者は、職場職場で、生産能率増進のウダールニクを組織し、家へかえる道々には、例えばモスクワ市立銀行の屋根に、赤く翻るプラカートを見た。そこには大きい字で書いてある。「我等のと・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 夏、共産少年少女の野営地を訪問すると、赤い旗が翻る愉快な日かげで、男の子女の子とりまぜの炊事当番が、ジャガ薯の皮むきをやっている光景によくぶつかる。 学年が進むと、級の日常生活は男女生徒の衛生委員、経済委員、学務委員、社会活動委員・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・ モスクワのメーデーは、あの賑やかさと、全市に翻る赤旗の有様だけでもほんとに見せたいようだが、次の日の五月二日は休みだ。疲れやすみだね。町々には、まだ昨日の装いものがある。労働者市民は、胸に赤い花飾りなんかつけて、三人四人ずつ散歩してい・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・峰から峰へとぶのに、弁天様の着物のように沢山の襞や色どりが翻るようなのだ。今に、その点が洗練されたら、持ち前のよいものが純粋に立派に輝き出すと信じます。〔一九二五年十月〕 宮本百合子 「読者の感想」
・・・「スモーリヌイに翻る赤旗」「ソヴェト五ヵ年計画と芸術」その他ソヴェトに関する印象、紹介などを書く。又三月には田村俊子、野上彌生子と合冊で『中條百合子集』が改造社から出版された。一月。作家同盟中央委員になり、〔七月〕常任中央委員になった。・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・一つの村に赤旗が翻ると、もうそこには、村のクラブと文盲撲滅の学校が出来た。そこで機械がまわり、男女の労働者が働いている工場なら生産管理の工場委員会が男女労働者とその指導者によって組織されると同時に、文化部の活動がはじまった。「十月」以後・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・ これもお揃の、藍色の勝った湯帷子の袖が翻る。足に穿いているのも、お揃の、赤い端緒の草履である。「わたし一番よ」「あら。ずるいわ」 先を争うて泉の傍に寄る。七人である。 年は皆十一二位に見える。きょうだいにしては、余り粒・・・ 森鴎外 「杯」
出典:青空文庫