・・・と新五郎は老眼を数瞬きながらいざり寄る。「どうかお光の力になってやって……阿父さん、お光を頼みますよ……」「いいとも! お光のことは心配しねえでも、俺が引き受けてやるから安心しな」「お光……」「はい……」「お前も阿父さん・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・うて、それはそれは寝るから起きるから乳を飲ます時間から何やかと用意周到のほど驚くばかりに候、さらに驚くべきは小生が妻のためにとて求め来たりし育児に関する書籍などを妻はまだろくろく見もせぬうちに、母上は老眼に眼鏡かけながら暇さえあれば片っ端よ・・・ 国木田独歩 「初孫」
・・・徳教の老眼をもってこの有様を見れば、まことに驚くに堪えたり。元禄年間の士人を再生せしめて、これに維新以来の実況を語り、また、今の世事の成行を目撃せしめたらば、必ず大いに驚駭して、人倫の道も断絶したる暗黒世界なりとて、痛心することならんといえ・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・例の爺さんは今しも削りあげた木を老眼にあてて覚束ない見ようをして居る。 やっちゃ場の跡が広い町になったのは見るたびに嬉しい。 坂本へ出るとここも道幅が広がりかかって居る。 二号の踏切まで行かずに左へ曲ると左側に古綿などちらかして・・・ 正岡子規 「車上の春光」
出典:青空文庫