・・・それを事実に意識したものが文芸にたずさわろうとする以上は、いかなる階級に自分が属しているかを厳密に考察せずにはいられなくなるはずだ。 しからば、来たるべき時代においてプロレタリアの中から新しい文化が勃興するだろうと信じている私は、なぜプ・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・……この辺の有島氏の考えかたはあまりに論理的、理智的であって、それらの考察を自己の情感の底に温めていない憾みがある。少なくとも、進んで新生活に参加する力なしとて、退いて旧生活を守ろうとする場合、新生活を否定しないものであるかぎり、そこに自己・・・ 有島武郎 「片信」
・・・自然主義を捨て、盲目的反抗と元禄の回顧とを罷めて全精神を明日の考察――我々自身の時代に対する組織的考察に傾注しなければならぬのである。 五 明日の考察! これじつに我々が今日においてなすべき唯一である、そうしてまたす・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・其処にもまた、呪うべく愍れむべき性急な心が頭を擡げて、深く、強く、痛切なるべき考察を回避し、早く既に、あたかも夫に忠実なる妻、妻に忠実なる夫を笑い、神経の過敏でないところの人を笑うと同じ態度を以て、国家というものに就いて真面目に考えている人・・・ 石川啄木 「性急な思想」
・・・思慮も考察も混乱している。精神の一張一緩ももとより混乱を免れない。 自分は一日大道を闊歩しつつ、突然として思い浮んだ。自分の反抗的奮闘の精力が、これだけ強堅であるならば、一切迷うことはいらない。三人の若い者を一人減じ自分が二人だけの労働・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・そして、あまねく人間に対する考察に於て、また、同じく愛し合わなければならぬ筈のものを、忘れてしまっているのではあるまいか。 自分達の生活――それは、実利的な、独善的な――たゞ、それが支障なく送られゝばそれでいいという考えから、広く人類に・・・ 小川未明 「人間否定か社会肯定か」
・・・ 流石に、ラッセルは、我が国に来て講演した際に、社会進化の考察を二つの立脚点からすることを忘れなかった。経済制度の改革に、これに伴うに精神進化をもってしたのです。真理に対する憧憬は其の一つです。愛を感じ正義に味方することが、またその一つ・・・ 小川未明 「民衆芸術の精神」
・・・ つとめて書を読み、しかもそれが他人の生と労作からの所産であって、自分のそれは別になければならぬことを自覚し、他人の生にあずかり、その寄与をすなおに受けつつ、しかも自らの目をもって人生を眺め、事象を考察することのできるもの、これが理想的の・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・それだけの地盤の上に、それだけの材料でなんらかの考察を築き上げようとするのである。ちょうど子供がおもちゃの積み木で伽藍の雛形をこしらえようとしているのとよく似た仕事である。それが多少でも伽藍らしい格好になるかならないかもおぼつかないくらいで・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・従って、かえってそういう文献などに精通しない門外漢の幼稚な考察の中からいくらかでも役に立つような若干の暗示が生まれうるプロバビリティーがあるかもしれないと思われる。また一方で自分は、従来自分の目にふれたわが国での映画芸術論には往々日本人ばな・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
出典:青空文庫