・・・あまり職掌を重んじて、苛酷だ、思い遣りがなさすぎると、評判の悪いのに頓着なく、すべ一本でも見免さない、アノ邪慳非道なところが、ばかにおれは気に入ってる。まず八円の価値はあるな。八円じゃ高くない、禄盗人とはいわれない、まことにりっぱな八円様だ・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・練習が少し積んで来ると、それはいろ/\な利益があるがね、先ず僕達の職掌から云うと、非常に看破力が出て来る。……此奴は口では斯んなことを云ってるが腹の中は斯うだな、ということが、この精神統一の状態で観ると、直ぐ看破出来るんだからね、そりゃ恐ろ・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・やはり職掌柄で随筆を読むにも診察的な気持があるせいであろうが、とにかくこういう読者は自分などの書くような随筆にとっては一番理想的な読者であろうと思われる。それだから自分も患者の気持になってちょっとだだをこねてみた次第である。 上記のごと・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
出典:青空文庫