・・・そこで「国際資本団体は夢中になって、敵手から一切の競争能力を奪わんと腐心し、鉄鉱又は油田等を買収せんと努力している。而して、敵手との闘争に於ける一切の偶発事に対して独占団体の成功を保証するものは、独り植民地あるのみである。」だから、資本家は・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・一カ月もたてば、醤油屋で使う道具の名前は一と通り覚えてしまわねば一人前の能力がないものゝように云われていた。で京一は、訊ねかえしもせずに、知っている風をして、搾り場の道具を置いてある所へ行って、まかない棒を探した。一寸、聞いたことのあるよう・・・ 黒島伝治 「まかないの棒」
・・・彼には清三がいろ/\むずかしいことを知って居り、難解な外国の本が読めるのが、丁度自分にそれだけの能力が出来たかのように嬉しいのだった。そして、ひまがあると清三のそばへ寄って行って話しかけた。「独逸語。」「……独逸語のうちでもこれは大・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・自己が大能力があッたら乱雑の世界を整頓してやろうなんかんというのが当世の薄ら生意気の紳士の欲望だが、そんなつまらない事が出来るものカネ。天地は重箱の中を附木で境ッたようになッてたまるものか。兎角コチンコチンコセコセとした奴らは市区改正の話し・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・ この観念出来るということは、恐ろしいという言葉をつかってもいいくらいの、たいした能力である。人はこの能力に戦慄することに於て、はなはだ鈍である。 動きのあること。それは世のジャーナリストたちに屡々好評を以て迎えられ、動きのないこと・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・彼の音信に依れば、古都北京は、まさしく彼の性格にぴったり合った様子で、すぐさま北京の或る大会社に勤め、彼の全能力をあますところなく発揮して東亜永遠の平和確立のため活躍しているという事で、私は彼のそのような誇らしげの音信に接する度毎に、いよい・・・ 太宰治 「佳日」
・・・ 信じる能力の無い国民は、敗北すると思う。だまって信じて、だまって生活をすすめて行くのが一等正しい。人の事をとやかく言うよりは、自分のていたらくに就いて考えてみるがよい。私は、この機会に、なお深く自分を調べてみたいと思っている。絶好・・・ 太宰治 「かすかな声」
・・・これに反して数学的推理の能力は早くから芽を出し初めた。計算は上手でなくても考え方が非常に巧妙であった。ある時彼の伯父に当る人で、工業技師をしているヤーコブ・アインシュタインに、代数学とは一体どんなものかと質問した事があった。その時に伯父さん・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・学級の出来栄えは教師の能力の尺度になる。一体学級の出来栄えには自ずから一定の平均値があってその上下に若干の出入りがある。その平均が得られれば、それでかなり結構な訳である。しかしもしある学級の進歩が平均以下であるという場合には、悪い学年だとい・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・これを前の言葉で表現しますと、今まで内発的に展開して来たのが、急に自己本位の能力を失って外から無理押しに押されて否応なしにその云う通りにしなければ立ち行かないという有様になったのであります。それが一時ではない。四五十年前に一押し押されたなり・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
出典:青空文庫