・・・そこで、十五日に催す能狂言とか、登城の帰りに客に行くとか云う事は、見合せる事になったが、御奉公の一つと云う廉で、出仕だけは止めにならなかったらしい。 それが、翌日になると、また不吉な前兆が、加わった。――十五日には、いつも越中守自身、麻・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・ 一樹の囁く処によれば、こうした能狂言の客の不作法さは、場所にはよろうが、芝居にも、映画場にも、場末の寄席にも比較しようがないほどで。男も女も、立てば、座ったものを下人と心得る、すなわち頤の下に人間はない気なのだそうである。 中にも・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・武家の能狂言に対して、芝居が発達した。その大門をくぐれば、武士も町人も同等な男となって、太夫の選択にうけみでなければならない廓のしきたりがつくられたのも、町人がせめても金の力で、人間平等の領域を保とうとしたことによった。大名生活を競って手の・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
出典:青空文庫