・・・創は「首構七寸程、左肩六七寸ばかり、右肩五寸ばかり、左右手四五ヶ所、鼻上耳脇また頭に疵二三ヶ所、背中右の脇腹まで筋違に一尺五寸ばかり」である。そこで、当番御目付土屋長太郎、橋本阿波守は勿論、大目付河野豊前守も立ち合って、一まず手負いを、焚火・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・…… おなじ少年が、しばらくの間に、一度は膝を跨ぎ、一度は脇腹を小突き、三度目には腰を蹴つけた。目まぐろしく湯呑所へ通ったのである。 一樹が、あの、指を胸につけ、その指で、左の目をおさえたと思うと、「毬栗は果報ものですよ。」・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・槍で脇腹を突かれる外に、樹の上へ得上る身体でもないに、羽ばたきをするな、女郎、手を支いて、静として口をきけ。初の烏 真に申訳のございません、飛んだ失礼をいたしました。……先達って、奥様がお好みのお催しで、お邸に園遊会の仮装がございました・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・と小判百両をありのまんまなげ出せばそれをうけとり「金がかたきになる浮世だワ」と脇腹を刺通すと苦しい声をあげて「汝、此のうらみの一念、この幾倍にもしてかえすだろう、口惜い口惜い」と云う息の段々弱って沢の所にたおれたのを押えて止をさし死がいを浮・・・ 著:井原西鶴 訳:宮本百合子 「元禄時代小説第一巻「本朝二十不孝」ぬきほ(言文一致訳)」
・・・ 二十一人のうち、肉体の存在が分るのは、七人だった。 七人のうち、完全に生きているのは四人だった。廃坑で待ちほけにあった、タエは、猫のように這いおりて来た。「柴田だ!」 脇腹から××が土の上にこぼれている坑夫は一本残っている・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・ふくれ上がり、腹や脇腹にはまっかな衝撃の痕を印していたそうである。 マクス・ベーアはサンフランシスコ居住のユダヤ系の肉屋だそうである。この「ユダヤ種」であることと「肉屋」であることに深い意味があるような気がする。 六万の観客中には、・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・早く殺さないと肉が落ちると云うので要太郎が鳥の脇腹をつまむと首がぐたりとなった。脆いもので。これが手始めでそれからは取るは取るは、少しの間に五羽、外に小胸黒を一羽取った。近頃このくらい面白かった事はない。「今晩鴫の御化けが来るぜ。」「来たら・・・ 寺田寅彦 「鴫つき」
・・・だから人間でも脇腹か臍のへんに特別な発声器があってもいけない理由はないのであるが、実際はそんなむだをしないで酸素の取り入れ口、炭酸の吐き出し口としての気管の戸口へ簧を取り付け、それを食道と並べて口腔に導き、そうして舌や歯に二役掛け持ちをさせ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・監房の中では男たちがシャツや襦袢を胡坐の上にひろげて、時々脇腹などを掻きながら虱をとっている。 目立って自分の皮膚もきたなくなった。艶がぬけ、腕などこするとポロポロ白いものがおちる。虱がわき出した。虱の独特なむずつき工合がわかるようにな・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ ソヴェト市民が欲しがっていたのは、ハァハァと陽気闊達に笑う哄笑であり、仲間の脇腹を突つきながら、快心をもって破顔する公明正大な笑いであったのだろう。ソヴェト市民の生活感情に、そういうユーモアがないならば、イリフ、ペトロフ二人のような辛・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
出典:青空文庫