・・・先ず予め茲で述べなければならないことは前論士は要するに仏教特に腐敗せる日本教権に対して一種骨董的好奇心を有するだけで決して仏弟子でもなく仏教徒でもないということであります。これその演説中数多如来正にょらいしょうへんちに対してあるべからざる言・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・女子の学校などでも一日に百二十本のアイスクリームを売って、汗にまびれてけなげにアルバイトして勉強している学生と、文化的な外見をもちながら、生活の中心が全く腐敗してしまっている女子学生とがある。もしこのような今日の現実を、「あれはあの人たちだ・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・一九三三年の佐野、鍋山の転向を筆頭とする大腐敗の徴候は、一九三二年三月のプロレタリア文化団体への弾圧以後、次第に日和見的な態度として文学団体の中へもあらわれて来ていたことの証拠である。「一連の非プロレタリア的作品」に対する自己批判として・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・作者が重い比重で自分の存在にのしかかって来て、深い悲しみを与えられた人間のそういう気持を、資本主義社会の逆境で歪んで来た人間性においてとらえ作品化すことが出来ず、反対に、有閑の上流生活において腐敗させられてゆく人間の生活力として把えていると・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・には、そういう動揺の気配がよくあらわれている。腐敗した古い婦人団体の内部のこと、町の小さい印刷屋の光景、亀戸あたりの托児所の有様などいく分ひろがった社会的な場面をあやどりながら、何かを求めている女主人公朝子の姿が描かれている。朝子が何を求め・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)」
・・・ 間もなく、これらの腐敗した肺臓を恐れる心臓は、頂の花園を苦しめ出した。彼らは花園に接近した地点を撰ぶと、その腐敗した肺臓のために売れ残って腐り出しただけの魚の山を、肥料として積み上げた。忽ち蠅は群生して花壇や病舎の中を飛び廻った。病舎・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・彼は自分の手である人間を腐敗させておきながら、自分の罪の結果をその人のせいにして、ただその人のみを責めました。彼は物的価値以外を知らないためにすべてをこの価値によって律しようとし、最も厳粛な生の問題をさえもそういう心情の方へ押しつけて行きま・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・総じて人心の腐敗に対して公憤を抱いているのである。過激思想ももちろんその中に含まれているであろうが、過激思想を退治しようとしている為政者の言行といえどもまたその中に含まれていないのではない。利のために働かず、任務自身のための任務をつくして来・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・その成功を伴なった華やかな方面においても、また腐敗を伴なった暗黒な方面においても。―― これは確かに一つの視点である。それによって私は今、祖先の生活を見つめている。 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・混合人は腐敗である。――しかも私は真に日本的なものを予感するのみで、それが何であるかを知らない。私は我々の眼前にそれが現われていると信じたくない。なぜなら私は悪しき西洋文明と貧弱な日本文明との混血児が最も栄えつつあるのを見ているのだから。―・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫