・・・ × 腰元が大ぜいで砂をまいている。 ――さあすっかりまいてしまいました。 ――まだその隅がのこっているわ。 ――今度は廊下をまきましょう。 × 青年が二人蝋燭の灯の下・・・ 芥川竜之介 「青年と死」
・・・わたしは城の門をはいってから、兵卒にも遇えば腰元にも遇った。が、誰も咎めたものはない。このマントルさえ着ていれば、この薔薇を吹いている風のように、王女の部屋へもはいれるだろう。――おや、あそこへ歩いて来たのは、噂に聞いた王女じゃないか? ど・・・ 芥川竜之介 「三つの宝」
・・・ 戸は内へ、左右から、あらかじめ待設けた二人の腰元の手に開かれた、垣は低く、女どもの高髷は、一対に、地ずれの松の枝より高い。 十一「どうぞこれへ。」 椅子を差置かれた池の汀の四阿は、瑪瑙の柱、水晶の廂であ・・・ 泉鏡花 「伊勢之巻」
・・・ おりからしとやかに戸を排して、静かにここに入り来たれるは、先刻に廊下にて行き逢いたりし三人の腰元の中に、ひときわ目立ちし婦人なり。 そと貴船伯に打ち向かいて、沈みたる音調もて、「御前、姫様はようようお泣き止みあそばして、別室に・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・世を渡る事が下手でない聟だと大変よろこび契約の盃事まですんでから此の男の耳の根にある見えるか見えないかほどのできもののきずを見つけていやがり和哥山の祖母の所へ逃げて行くと家にも置かれないので或る屋敷の腰元にやった。そうするともとからいたずら・・・ 著:井原西鶴 訳:宮本百合子 「元禄時代小説第一巻「本朝二十不孝」ぬきほ(言文一致訳)」
出典:青空文庫