・・・ 茸は立衆、いずれも、見徳、嘯吹、上髭、思い思いの面を被り、括袴、脚絆、腰帯、水衣に包まれ、揃って、笠を被る。塗笠、檜笠、竹子笠、菅の笠。松茸、椎茸、とび茸、おぼろ編笠、名の知れぬ、菌ども。笠の形を、見物は、心のままに擬らえ候え。「・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・と、少しあれたが、しなやかな白い指を、縞目の崩れた昼夜帯へ挟んだのに、さみしい財布がうこん色に、撥袋とも見えず挟って、腰帯ばかりが紅であった。「姉さんの言い値ほどは、お手間を上げます。あの松原は松露があると、宿で聞いて、……客はたて込む、女・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・ 下じめ――腰帯から、解いて、しめ直しはじめたのである。床へ坐って…… ちっと擽ったいばかり。こういう時の男の起居挙動は、漫画でないと、容易にその範容が見当らない。小県は一つ一つ絵馬を視ていた。薙刀の、それからはじめて。―― 一・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・ 上前の摺下る……腰帯の弛んだのを、気にしいしい、片手でほつれ毛を掻きながら、少しあとへ退ってついて来る小春の姿は、道行から遁げたとよりは、山奥の人身御供から助出されたもののようであった。 左山中道、右桂谷道、と道程標の立った追分へ・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
出典:青空文庫