・・・ ――――――――――――――――――――――――― 縛り首にしろと云う命が出た事は、直に腹心の近習から、林右衛門に伝えられた。「よいわ。この上は、林右衛門も意地ずくじゃ。手を拱いて縛り首もうたれまい。」・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・政治家や実業家には得てこういう人を外らさない共通の如才なさがあるものだが、世事に馴れない青年や先輩の恩顧に渇する不遇者は感激して忽ち腹心の門下や昵近の知友となったツモリに独りで定めてしまって同情や好意や推輓や斡旋を求めに行くと案外素気なく待・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・恋愛よりも、親の愛、腹心の味方の愛、刎頸の友の愛に近いものになる。そして背き去ることのできない、見捨てることのできない深い絆にくくられる。そして一つの墓石に名前をつらねる。「夫婦は二世」という古い言葉はその味わいをいったものであろう。 ・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・ 彼は、何だか、眼前が急に明るくなったように感じられた。腹心の、子飼の弟子ともいうべき子分達に、一人残らず背かれたことは、彼にとって此上ない淋しいことであった。川村にしても、高橋にしても、斎藤にしても、小野にしても、其他十数人の、彼を支・・・ 徳永直 「眼」
・・・ 腹心の番頭と、やや暫く評議を凝らしたときには、これからもう五六年も後のことが、ちゃんと表になり数字になって現われていたのである。 禰宜様宮田の臆病なウジウジした様子が、何か年寄りに「いい思案」のきっかけを与えたらしかった。 海・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫