・・・それが切っ掛けで腹膜になり、大学病院へ入院した。手術後ぶらぶらしているうちに、胸へ来た。医者代が嵩む一方、店は次第にさびれて行った。まるで嘘のように客が来なかった。このままでは食い込むばかりだと、それがおそろしくなりたまりかねてひそかに店を・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・妻の方でも、妻も長女も、ことに二女はこのごろやはり結核性の腹膜とかで入院騒ぎなどしていて、来る手紙も来る手紙もいいことはなかった。寺の裏の山の椎の樹へ来る烏の啼き声にも私は朝夕不安な胸騒ぎを感じた。夏以来やもめ暮しの老いた父の消息も気がかり・・・ 葛西善蔵 「父の出郷」
・・・膿が腹膜にこぼれていて、少し手おくれであった。入院は今年の四月四日のことである。中谷孝雄が見舞いに来た。日本浪曼派へはいろう、そのお土産として「道化の華」を発表しよう。そんな話をした。「道化の華」は檀一雄の手許にあった。檀一雄はなおも川端氏・・・ 太宰治 「川端康成へ」
・・・ また私が、五年まえに盲腸を病んで腹膜へも膿がひろがり、手術が少しややこしく、その折に用いた薬品が癖になって、中毒症状を起してしまい、それをなおそうと思って、水上温泉に行き、二、三日は神に祈ってがまんをしたが、苦しさに堪え切れず、水上町・・・ 太宰治 「俗天使」
・・・医者に見せるのが遅かった上に、湯たんぽで温めたのが悪かった。腹膜に膿が流出していて、困難な手術になった。手術して二日目に、咽喉から血塊がいくらでも出た。前からの胸部の病気が、急に表面にあらわれて来たのであった。私は、虫の息になった。医者にさ・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・それも、病気を苦にして、休みたかったのだったそうだが、今度は、愈々腹膜になって、ひどい苦しみようだと云うのである。 朝から様子を見に行って居たとりが「奥様、もう駄目でございますのよ!」と云い乍ら、顔をかえて水口から入って来た時、・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
出典:青空文庫