・・・人から聴けば臍の緒も煎じ、牛蒡の種もいいと聴いて摺鉢でゴシゴシとつぶした。 しかし一代は衰弱する一方で、水の引くようにみるみる痩せて行き、癌特有の堪え切れぬ悪臭はふと死のにおいであった。寺田はもはや恥も外聞も忘れて、腫物一切にご利益があ・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・それが最近に不思議な因縁からある日の東京劇場におけるその演技を臍の緒切って始めて見物するような回り合わせになった。それで、この場合における自分と、前記の亀さんや試写会の子供とちがうのはただ四十余年の年齢の相違だけである。従ってこの年取った子・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・「モチーフとは、作品にとっては作者なる母体につながる臍の緒である」本当にそうではないだろうか。 例えば青野氏が真情をこめて「小説というものは、作家の誠実な生命と結びついたもので、その意味では容易に生み出されるものでなく」と云われる場合、・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・――と云う意味に於てどんな作家だって自分の臍の緒は必ずどの階級かに繋がっている。従って自分の臍の緒を繋ぐ階級が文化の宣伝具としてジャーナリズムを統制してゆけば、その統制に応じて執筆者、大小作家がその統制に服してくるのは当り前だ。ブルジョアジ・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
出典:青空文庫