・・・戦争をしている国民が、より多く自国の国力に適合する平和の為という目的を没却して、戦争その物に熱中する態度も、その一つである。そういう心持は、自分自身のその現在に全く没頭しているのであるから、世の中にこれ位性急な(同時に、石鹸玉心持はない。…・・・ 石川啄木 「性急な思想」
・・・ 三 帝国主義××は、何等進歩的意義を持っているものではなく、却って、世界の多数の民族を抑圧すると共に、その自国内に於けるプロレタリアをも抑圧して、賃銀労働の制度を確保し拡大せんがために行われるものである。けれども・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・と水鏡にはあるから、相手が外国流で己を衛り人を攻むれば、こちらも自国流の咒詛をしたのかも知れぬ。しかし水鏡は信憑すべき書ではない。 役の小角が出るに及んで、大分魔法使いらしい魔法使いが出て来たわけになる。葛城の神を駆使したり、前鬼後鬼を・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・ ヘレン・ケラーは生後十八ヶ月目に重い病のために彼女の魂と外界との交通に最も大切な二つの窓を釘付けされてしまったにかかわらず、自由に自国語を話し、その上独、仏、羅、希にも通ずるようになった。指先を軽く相手の唇と鼻翼に触れていれば人の談話・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・ 八十八 科学者の不遇 科学者が世界の文明に貢献し自国の栄誉を高めつつあるにもかかわらず一般に不遇であるのは何処も同じと見える。近頃英国の某新聞で陸海軍人の待遇を論じたのについて某科・・・ 寺田寅彦 「話の種」
・・・金の魚虎は墺国の博覧会に舁つぎ出したれども、自国の金星の日食に、一人の天文学者なしとは不外聞ならずや。 また、外国の交際においても、字義を広くしてこれを論ずれば、霞が関の外務省のみをもって交際の場所と思うべからず。ひとたび国を開きてより・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・国の権を争い人の利を貪ぼるは、他なし、自国自身の平安を欲する者なり。 また、物を盗み人を殺す者といえども、自から利して自己の平安幸福をいたさんと欲するにすぎず。盗んでこれを匿し、殺して遁逃するは何ぞや。他の平安幸福をば害すれども、おのず・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・とて、自国を重んずるの念、はなはだ薄きに似たれども、かつて譏を受けたることなきのみならず、かえって聖人の賛誉を得たり。これに反して日本においては士人の去就はなはだ厳なり。「忠臣二君に仕えず、貞婦両夫に見えず」とは、ほとんど下等社会にまで通用・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・その虚実、要不要の論はしばらく擱き、我が日本国人が外国交際を重んじてこれを等閑に附せず、我が力のあらん限りを尽して、以て自国の体面を張らんとするの精神は誠に明白にして、その愛国の衷情、実際の事跡に現われたるものというべし。 然るに、我輩・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 左れば自国の衰頽に際し、敵に対して固より勝算なき場合にても、千辛万苦、力のあらん限りを尽し、いよいよ勝敗の極に至りて始めて和を講ずるか、もしくは死を決するは立国の公道にして、国民が国に報ずるの義務と称すべきものなり。すなわち俗にいう瘠・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
出典:青空文庫