・・・ 三人とも愉快に談じ酒も相当に利いて十一時に及ぶと、朝田、神崎は自室に引上げた、大友は頭を冷す積りで外に出た。月は中天に昇っている。恰度前年お正と共に散歩した晩と同じである。然し前年の場所へ行くは却って思出の種と避けて渓の上へのぼりなが・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・それで、これは夏目先生に関する一つの資料として保存しておけば他日きっと役に立つ機会があるであろうと思ったので、当時の大学理学部物理教室の自室の書卓の抽斗しの中に他の大事な手紙と一緒に仕舞い込んでおいた。 ところが、その後間もなく自分は胃・・・ 寺田寅彦 「埋もれた漱石伝記資料」
・・・ 昨年のある日の午後、彼は某研究所にある若い友人を尋ねたが、いつもの自室にその人はいなかった。そこらの部屋を捜しあるいたが、尋ねる人もその他の人もどこにも見えなかった。おしまいにある部屋のドアを押しあけてのぞくと、そこにはおおぜいの若い・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
出典:青空文庫