・・・素人にはこれほど自明的な事はないと思われる事が専門の画家にはどうして感ぜられないかという気がする。 モロオの絵がある。この人もオリジナルな人である。この人の習作や沢山の未成の絵を並べて、そして一夜漬けの模造品を雑作もなく塗り上げる人達に・・・ 寺田寅彦 「二科会その他」
・・・それでだれかの着物に隠れているという事は始めから自明的にわかりきった事であったのである。 それにしても、羽織の裏にしがみついて人間と背中合わせにぶら下がったままで十分以上も動かないでいたねずみの心持ちがわからない事の一つである。極度の恐・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・が多いように思われており、また実際そうであるのは、これらのものの作者が従来精神的素養の乏しい階級に属していたためにそうなったので、それは必ずしも必然な本質的な理由あっての事ではないという事は、ほとんど自明的な事と思われる。そうでなかったらユ・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・しかしそれが当然その日の早慶野球第三回戦に関する問いであることが、車掌にも彼にも自明的であったほどにそれほどに、その日の東京の空気には野球戦というものがいっぱいになっていたのである。彼は返事に狼狽した。そうしてそれに対して応答もできない自分・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
・・・二十年前だったら、設計も立て札も当然自明的であって、制札を無視するのが没公徳的で悪いのであった。 自分の郷里では、今は知らず二十年も以前は、婚礼の三々九度の杯をあげている座敷へ、だれでもかまわず、ドヤドヤと上がり込んで、片手には泥だらけ・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・ もちろん質的の思いつきだけでは何にもならないことは自明的であるが、またこれなしには何も生まれないこともより多く自明的である。西洋の学界ではこの思いつきを非常に尊重して愛護し、保有し、また他人の思いつきを尊重する学者が多いのであるが、わ・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・そういう功利的通念は、今や、オイ、御新邸を背負って華族の娘さんが嫁に来るぜ、という例外の一例とはなるかもしれないが、この結合を、社会的な評価で新しい内容をもつものであるといい得ないことは自明である。 われわれ個人の恋愛や結婚の幸福を、か・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・文化を擁護するということは、市民的自由と基本的人権の擁護なしに存在しないことが、こんにちでは、自明となっているのである。 ファッシズムへの抵抗、平和擁護の一つをとってみても日本の人民的民主主義の全局面が、現在どんなに国際的条件にかかわり・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・人間は、より高大な、啓発された生活へ自分の霊を育てる為の助力者、試金石、として、先ず最も自分に近く、最も自分の負うべき自明の責任の権化である配偶を持たずには居られない本能を有するのではないか。 少くとも、自分は自分の結婚に対して、以上の・・・ 宮本百合子 「黄銅時代の為」
・・・ 雄々しい生きてとして若い時代が成長して行かなければならないということは、女の子がたけだけしくなることでないのは自明である。団体さえ組めば何でも優先権をとれる、という昔とはちがった世渡り上手のこつを会得させることでもないと思う。団体行動・・・ 宮本百合子 「女の行進」
出典:青空文庫